魔法使いの嫁2


我が妻が箒にまたがり、飛んで行ってしまった空を見上げる


「、、、なかなか手強いな」


どんなに愛を囁いても、彼女の心は頑なに自分を入れてはくれない。


「、、、、ちっ、、、らしくないな」


こんなにも誰かを自分が欲するようになるなど、思ってもいなかった。


ーーーー書庫で会ったときから?


いや、違うな。もっと前からだ。あいつはきっと覚えてはいないだろうがーーーーーー




「、、、!こっ、、、こんにちは!」

「、、、?、、、、誰だお前」

「えっ、、、あ、えと、凛、、、です。」

「そうじゃない、何者だ」

「えっ、、、あ、○○国のこっ、皇女です。」

「、、、、?皇女が何の用でここにいる」

「えと、、、父に連れて来られて、、、」

「、、、、そうか、知らないのか。なら良い、用はなんだ」

「えと、、、あの迷って、、しまって、、、」

「、、、、。客室はあっちだ」

「、、、!あっ、有難う御座います!!!

あっ、あの、、、お名前はっ、、、」

「、、、練紅炎、練紅炎だ」

「紅炎さん!有難う御座いました!!!」

「、、、ああ。ほら、早く行け」

「あ、はい!」




あの日、最後に顔を上げ、屈託の無い笑みを向けたあの皇女。

その眼を見た時から、欲しい、とそう思った。

あの、皇族らしからぬ、穢れを知らない目。




聞けば、あの国は血族全員で国を統治しているそうで、代々皇帝は長子が次ぐという絶対的な掟のもと、権力争いなど皆無であるそうだ。


この戦乱の世に内乱が無いなど、なんと珍しい国であろうか、と思った記憶がある。

あの娘のような者がいる訳である。







だから、あの国の討伐の命を受けた時、嬉々として承諾した。

きっと、あの娘はあの美しい眼で泣くのだろうと思った。

だが同時に、それを見たい、とも思ってしまった。

あの眼に、俺は魅せられていた。

自分のものにしたいと、俺だけをその目に映せばいいと、そう思っていた。



だから、人質として要求した。皇女が一人しかいない事は承知の上であった。


そして、偶然、本当に偶然、書庫で出会った。あの時よりも格段に美しくなっていた。

それもそうだ、あの時はかれこれ10年も前の話である。


あの眼が、俺を見つめていた。

穢れを知らない、あの眼。
そしてそこにはやるせない悲しみが見てとれた。祖国が奪われようとしているのに、敵国にいて、何も出来ないことをもどかしく思っていたのかもしれない。

そして、悲しみを湛えたまま、それでも俺を睨みつけていた。敵国の者だと分かったからだろう。
ボルグまで張って。


面白い、と思った。今までの忌々しい女達とは違う、気高く、澄んだ眼をした女


壁が何だというのだ、そんなものは崩せばよいだけだ。


そうして、俺はあいつを妻にした。


他に女などいらなかった。


年が経つに連れ、初めは警戒心しかなかったが、段々とそれも薄れて行った。言い合うようにまでなった。


だが、あの眼に俺は映されない。
どれだけそれを欲しても。

どれだけ、愛を囁いても。




「、、、、、馬鹿か、俺は」




こんなにも、一人の女のために頭を悩ますなど。

これが国同士のことなら、力でどうにでもなるのに。

心とは、なんと厄介なものか。



だが、どうしても諦めきれないのだ。

あの眼に、俺を映してほしい。



「、、、、、、凛、、、」


誰かの名を、こんなにも愛おしいと思った事は未だかつて無い








「、、、、、、、、は、本当にらしくないな」



そう呟いて、自室に戻っていく背中を見つめている目があった事を、彼は知らなかった。

















「どうして、そんなに愛おしそうに私の名をよぶのよ、、、、紅炎、、、」


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