魔法使いの嫁


ドゴオォォォォンッッッッ!!!






煌帝国城内、何処からか爆音がする。

普通なら城内全てが混乱するであろう程の音であるが、誰もがそれに気を取られることはない。


「今日も始まったな」

「あの人もよくやるなぁー」


もはや、日常の一部と化しているからだ。














「、、、、いっ、、、、つ、、、!ケホッ、ケホッ、、、、」


噴煙の中から出てきた女。丸縁眼鏡に白衣という出で立ちであるが、その白衣も、もはや黒衣と呼べるほど汚れていた。



「くっそー、どこ間違ったかなぁー。」


ブツブツと言いながらゴソゴソと紙を取り出しメモをしだす。


「風の威力が強すぎたかなー、うん。」


辺りの大惨事と相反して、女はとても冷静だった。





ドドドドドドドドドドドドドドドド!!!


バタンッッッッ!!!


廊下を駆けてくる音が聞こえたかと思うと唯一形が残ってる扉が勢い良く開けられる


「姉上っ!!!」



これも、もはや日常の一部である





「あ、紅明」



「あ、じゃないですよ!また部屋を壊して!この前直したばかりなのにっ!!」

「いやー照れるねぇー」

「褒めてませんっ!!!」

ほんとに貴方って人は、、、とお説教が始まる

紅明の説教は長いんだよなぁーと思いながらも、逃げ出そうものなら長さが倍どころでは無いので大人しく座っておく。まぁ、話は聞いてないんですけどね。



「ーーーーーーと、貴方はもう少し兄王様の奥方で有るという自覚を持ってください!」


最後のセリフも毎回お決まりである。



「はーーい」

「はーーい、って返事が軽いっ!!!」

「ふわいっ!!!」

「よろしい!」

「あざまっしたぁっ!」


いささか不機嫌さが残るものの渋々と言った様子で帰っていく紅明

絶対ですからね、、、!と釘を挿していくのも毎度おなじみだ。




「、、、、、さーて、実験実験、、、」

煤けた床の扉を開くと、ズラッと並んでいる試験管などの実験器具たち



ほんとに、私が聞くわけないのに毎度御苦労なことだ。






「、、、、、、、、、あまり弟を虐めてくれるな、最近は俺の所にまで苦情が来るようになった」

「わっ、、、!紅炎、、、入るときはノックくらいしてってば」

突然の声に驚き、思わず試験管を落としそうになる。
少々むっとしながら振り向くと予想通り、ニヤニヤと壁にもたれかかるわが夫、練紅炎がそこにいた



「わざわざ会いに来たというのにつれないな、出迎えは無いのか」

「はいはい、出迎えね、出迎え、、、


  くらえ!"ファイヤーボール"!!!」


最近出来たばかりの新魔術をお見舞いしてやる


「、、、危ないだろう」

「ちっ、、、外したか」


躱されるとは分かっていたものの残念で仕方ない



「まぁ、そんな所もかえってソソられるがな」

「、、、、」

そう、コイツがとんでもない変態だからだ。







出会いは二年前、私の祖国が煌帝国との戦いに敗れ、敗戦国である我が国に要求されたのは皇女を一人、人質として送ること。

そして生憎、十数名の皇族がいる中、なんと皇女は私一人。

まぁ、ということで人質として送られ、最初は大人しくしていた(これはかなり珍しい)。

だが、男ばかりの親戚一同と供に暮らしてきたため、女らしさなど私には皆無、じっとしている事に耐え切れなくなったのである。

一応、祖国では魔導師として、ある程度の地位に付いていた為、こうなったら煌帝国の魔導書を片っ端から読んでしまえと、許可も取り(これもかなり珍しい)書庫で黙々と読んでいたところ、声をかけられたのだ。


そう、コイツは最初からまさに唯我独尊だった


「お前誰だ」から始まり「俺の嫁になれ、拒否権は無い」に終わるという起承転結が激しすぎる経緯なのだ。

別に私は何にも変な事は言っていない。ただ、邪魔されるのが嫌で結界魔法を張っただけだ。
その結界も魔装の前には成すすべも無かったのだが


そういう訳で、何故か知らぬ間に結婚の相手にされるわセクハラはしてくるわ、、、と苦労の多い生活を送っている


ホントによく臣下は付いてきたなと思う








「、、、、フッ、俺の前で隙を見せるなど、お前らしく無いな、俺のことでも考えていたのか」

「ふぎゃっ!」


かれこれ考えるといきなり後ろから抱きすくめられる。

しまった、油断していた


「、、、、、ちょっと、離して」

「断る」

「実験の邪魔です、離して」

「そんなの後でしろ、せっかくつまらん軍議を抜け出してきたんだ。休ませろ」

「うわー、またですか。紅明に怒られますよ」

「お前も人の事は言えんだろう」

「私は良いんですよ」

「クックッ、、、紅明が苦労するはずだ」

「貴方ほどではありませんよ」

「ほぅ、そんな口を聞くなら塞ぐぞ」

「なっ、、、、もう、その手は喰らいませんから!」

慌てて口を両手で塞ぐ

「つまらん」

「つまらなくありません」

前は大変な目にあったのだ、、、詳しくは言えないが


「、、、、、眠いな」

「、、、はっ?」

「眠い」

「あぁ、永遠に眠ります?」

「クックックッ、、、、怖いな我が妻は」

「だてに貴方みたいな人の妻をやってるわけではないですよ」

「ほぅ、言うようになったな。、、、、いや、最初からか」

「そうですか?」

「そうだ、、、あの書庫で会ったときから、お前は何も変わらない。

美しく、気高い我が妻、あの時から俺はお前に惚れている」

「またまた、そんなご冗談を、、、」

「嘘ではないさ、、、」

抱きすくめられていたのに、体の向きを変えられ、向きあう形になる。

予想通りのギラギラした眼だ。いつもは死んだような眼をしてるのに、この眼はずるいといつも思う。

逆らえないじゃないか


「、、、それとも、言葉だけでは満足できないと?それなら、いくらでも相手をしてやろう、、、」

「なっ、、!?ちっ、違います!またそうやって私をからかって遊んでるんでしょう!お生憎様、私は騙されませんよ!?」

頬に差し伸べられた手を払いのけ、きっ、と睨みつける。

そうさ、私なんかに惚れてるなんて、そんな甘い言葉で騙そうなんて、それこそ甘い、甘すぎる。


「それじゃあ!私は実験しに行きますから!軍議頑張ってください!!」

手を払われたことが意外だったのか呆けている間に懐から出て、箒にまたがり実験だなんてそんな嘘をついて外へと飛び出したのだった。







そう、どんなに甘い言葉であっても、そんな言葉を真に受けてはいけないのだ。真に受ければ傷付くだけ。

自分の心にあるこの気持ちに名前をつけて何になるというのだ。

所詮、私は国を乗っ取るための都合の良い道具でしかないのに、なぜ心を与える必要がある?

私の結婚のせいで、今はもう煌帝国の一部と化してしまった、昔の面影の消え失せてしまった祖国。それなのに、私が幸せになるなど、あってはならない。

私が死んででも拒否していれば、あの美しい国が根底から無くなることなど無かったであろうに、何故私は死ねなかったのだろう、、、


思い出すのは、あの時のギラギラとした紅の眼




「あぁ、ホント、愚かなのは私ね、、、」





遥か下へと落ちていったのは決して涙ではないはずだ



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