パチン、パチン。文次郎お得意のそろばんの音がひびいている今は深夜である。帳簿が合わないとかなんとか言って、徹夜続きのわたしの彼氏なのだけど、彼女としては少しは休んでほしいものである。眠くないのかな、と思ってるわたしが、もうそろばんの音が子守歌みたいで眠い。ふぁ〜っとあくびをしたら、「お前は早く寝ろ」と言われてしまった。まだ文次郎と、いたいのに。


「ね、いつ終わる?」
「あと少しだ」
「ん…」
「…おい、もう眠いならさっさと寝ろ」
「やだ、終わるまでまってる」
「はあ…」


あ、ため息つかれた。面倒くさいって思われちゃったかな。わたしに背を向けて机にむかう。急にその文次郎の大きな背中に抱きつきたい衝動に駆られたわたしは、控えめに腰に抱きついた。抱きついた途端、文次郎はピクっとして固まってしまった。あ、耳真っ赤。


「もんじろ、」
「…お前なあ」
「えへへー、文次郎まっかっか」
「もう、本当、寝てくれ…」


照れてる?って聞いたら、阿呆って言ってバシっと叩かれた。文次郎は反応がいちいち可愛い、と思う。愛しいなあ。


「…なまえ」
「なーに、」
「…これぐらいでもしないと、お前は寝ないからな」


わ、わわ、なんか、顔ちかい…とか思ったらちゅーされた。おでこだけど。さっさと寝ろ!と言い捨ててまた机に向かった。まあ、なんと可愛いテレ隠しだこと。おかげで目は覚めてしまったのだけど、文次郎のためには今は寝てあげることにする。おやすみ、と声をかけて布団にもぐりこむ。あったかい。


「あ、忘れてた」
「なんだ?」
「文次郎」
「?」
「だーいすきだよ」
「…バカタレ」




120304 あまえたい / 潮江文次郎
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