きっと、これから先ずっと、私はアイツから離れられないんだと思う。 × 「先輩」 インターフォンが鳴り、玄関へ行けば、スーツを着て、ネクタイをピッチリと閉めたヒビキが、私を見て変わらない笑顔でほほ笑んだ。 私とヒビキが付き合いだして、早いことに8年の月日が経った。私もヒビキも社会人になって、前よりも忙しくなったけど、時間をつくるのにも余裕が出来た。だから私たちは定期的に会って、2人でご飯を食べに行ったり、たまにお互いの家に泊まったり、そんな日々を送っていた。ちなみに付き合う前にあんなにべたべたくっついてきていたヒビキだけど、その習慣は今でも変わらない。 「先輩今日も可愛いです」 「はいはい。わかったわかった」 「先輩」 ヒビキに急に腕をひかれ、びっくりして目をつむると、すぐに唇に感じるいつもの柔らかさ。ああキスされたんだと気付いたと同時に、こんな人目につくかもしれない、まだドアの開いた状態でキスしてくるなんて!と恥ずかしさがこみあげてきた。でも拒もうとすればするほど、ちゅっちゅっと音をたててキスしてくるので困る。 「んんーっ!」 「ふはッ!先輩かわいっ」 キッと睨めば、さっきと同じようなバードキスで返された。 正直に言えば、嫌じゃないどころか嬉しいから別にいいんだけど…。 ヒビキは満足したのか、ある程度私にキスをすると、にこにこしながら靴を脱いで家にあがった。 本当に勝手なやつだ。 「せんぱーい。早く来てくださいよー」 「はいはい」 紅潮した顔を冷ますために、ゆっくりと部屋まで行けば、ヒビキがぼーっとソファに座っていた。 「どうしたの?そんなぼーっとして、なにかあった?」 「いや、なんでもないっス。そんなことより!久々に先輩の手料理が食べたいなー!なんてっ」 「じゃあすぐ用意するから待ってて」 「はーい!」 にっこり笑ったヒビキを見届けて私はキッチンへ向かった。 × 「先輩」 「ふぎゃっ!」 夕食を作っていると、ヒビキが突然後ろから腕を伸ばして腰に抱きついてくる。それにびっくりして変な声を出せば、ヒビキが声を押し殺して笑いながら言った。 「…っ、せんぱい、かわいっ…」 「びっくりしたんだからしょうがないでしょ!…笑うなバカ!」 いまだくつくつと笑うヒビキの腕を私の腰からひきはがそうとする。ヒビキはそれにまったく抵抗することなく、あっさり腕を離して私から離れた。 自分から離せと動いたはずなのに、そうあっさり離されたらなんだか寂しいじゃない。 そう思った私はくるりと振り返るとヒビキと向き合う。するとヒビキはまるで予想していたとばかりに、満足げに笑うと、今度は正面から抱きしめてきた。 「全く、いちいち可愛いんですから」 「可愛くなんかないよ…」 「可愛いです。少なくとも、俺にとっては世界で1番」 言いながらにっと笑ったヒビキに不覚にもキュンときて、おでこをぐりぐりとヒビキの肩に押し付けた。 「先輩、聞いて」 「うん」 言って真剣な顔つきになるヒビキに、少しだけ緊張して首を傾げる。ヒビキはそんな私をぎゅっと抱きしめて続けた。 「なにがあっても。きっと、絶対、誰よりも俺が先輩のことを好きだから、」 そこまで言って撫でられた左手に、違和感を覚える。ふと見つけたそれに、思わず涙が零れそうになる。 「俺のお嫁さんになってください」 もう堪えられなかった。こぼれ落ちた涙を拭わず、ヒビキにぎゅうっと抱き着いて、何度も何度も頷いた。 「世界で1番幸せにします」 薬指で光る指輪に口づけて、ヒビキは笑った。 |