ゆめ | ナノ



自転車のタイヤがビレッジブリッチを滑っていく。橋の下ではバスラオたちが楽しそうに遊泳していた。太陽の光が水面に反射してキラキラと輝くのを、私は自転車の後ろに座って見ていた。



「トウヤ見て。バスラオが泳いでる」
「バスラオなんかどこにでもいんだろ。つーかそんなもん見てる余裕ないっつーの」



水面を指さしながら、前に座って自転車をこぐトウヤに声を掛ければ、息一つ乱さずにそう言ってのけた。

なにが余裕ないだ。超余裕じゃないか。

対する私は後ろに座っているにもかかわらず、すでに汗だくで、自転車に乗ってるだけですでに伸びてしまいそうだ。なにより太陽光に直接照らされている頭が暑くて仕方ない。このままじゃ日焼けしてしまうとふんだ私は、トウヤの頭をおおっている帽子を奪ってかぶった。



「なにしてんのお前」
「暑くって」
「返せ」
「やだ」



返せ、やだ、と数回繰り返せば、トウヤは諦めたようにため息をついてから、もう好きにすれば、と言った。



「ねえトウヤ」
「ん?」
「サザナミ湾にはラブカスいるかなー?」



背中に問い掛ければ、しばらく間をおいてから、いるんじゃねー、という言葉が聞こえた。



「ねえトウヤ」
「んー」
「暑い」
「俺も暑い」



暑いとか言いながら涼しい顔をするにむっとして、腰にギュッと抱きついた。トウヤはあちぃ、とか言ってたけど離れてやるつもりなんかない。ゲートをくぐればすぐそこは広い広い海だ。



「トウヤー」
「ん?」
「大好き」
「お前本当暑苦しい」



トウヤの言葉に、うわーひっどーい、ともらせば、トウヤは自転車のペダルを思いっきり蹴って言った。



「でも、俺も悔しいけどお前が好きだよ」


なにそれ反則。

なんだか悔しくなって、おでこをぐりぐりと、トウヤの背中に押し付けた。ザアザアと、遠くで波の音が聴こえた。





0830
1万打企画。桜華さんへ
title.いいこ




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