「これでよし!」 そう言ってから、鏡の前に立ってくるりと回ってみれば、真新しいスカートがふわりと舞った。今日は待ちに待ったヒビキ君とのデートの日。いつもより気合いを入れて準備をした。慣れないお化粧も、ゆるゆる巻いた髪も、買ったばかりの洋服も、なんだか嬉しくて仕方ない。両手で頬っぺたをおおって、企むように笑えば、下からお母さんが私を呼ぶ声が聞こえてきた。 「名前ー、ヒビキ君が迎えに来てくれたわよー」 「今行くー!」 私は大きな声でそう言うと、一階にばたばたと下りていった。 「ごめんね、ヒビキ君。お待たせ!」 「全然待ってないから気にしないで」 そう言ってにっこり笑いながら、さりげなく私の手をとるヒビキ君にきゅんとする。 「それじゃあおばさん。今日1日名前のことお借りしますね」 「1日とは言わず1ヶ月くらい貸してあげるわよ」 「もう!お母さん」 「10年後には完全に僕のものになってると思うんで、とりあえず1日だけお借りします」 「ちょっ、ヒビキ君!」 さらりとプロポーズまがいのことを言ってのけるヒビキ君に、お母さんはまあ!と言って笑い、私は恥ずかしくなって、ヒビキ君の手をひいて、急いで家を出た。 「名前、あんまり急ぐと転ぶよ」 「別に転ばないよ…わっ!」 「…ばか!」 転ぶよ、と忠告された途端に躓いて転びそうになった私を、ヒビキ君が間一髪のところで掴み、息をつく。 「言わんこっちゃない…」 「…申し訳ないです」 全く、と言いながら私の頭を撫でて、先程私が転びそうになったせいで離れてしまった手を再び握り、ヒビキ君は言った。 「まあ、名前を守るのは僕の仕事だからね」 行くよ、と言って私の手をひくヒビキ君に、心臓がドキドキとうるさかった。 0725 1万打企画。凛ちゃんへ title.ポケットに拳銃 |