ゆめ | ナノ



ぱっと目が覚めればベッドに寝てるし、担任は不敵に笑いながら部屋に入ってくるし、見回してもアイツはいないし。

俺がどんな気持ちでここに来たのかなんて、双子であるトウコ以外、分かりっこないだろう。





×





「おら、そろそろ帰んぞ」



ようやく泣きやんだ私と目線を合わせるようにしゃがみ込み、トウヤ君は言った。トウヤ君になんだか悪いことをしてしまった(まあ普段トウヤ君が私にしてることのほうが酷いけれど)。トウヤ君の言葉にうなずくと、私は立ち上がろうとした、のだけれど。



「…なにしてんの」
「あ、しが…」
「足?」
「さっき、くじいたみたい。…痛くて立ち上がれない」



俯きながらそう言えば、上からため息が聞こえた。

どうしよう。トウヤ君ならめんどくさがって帰っちゃうかもしれない。そうすれば私はここに取り残されて一人。考えただけで泣きそうだ。

緩くなった涙腺が涙を生成するのはとても早い。沈黙が痛くて目の前が涙で滲んできた。そんな時だった。



「う、わ!」
「じっとしてろよ」



ふわりとした浮遊感を感じ、気付いたら私の身体は宙に浮いていた。お腹に圧迫感を感じて首を少しひねってみれば、トウヤ君が私を担いでいた。私は後ろ向きに抱かれていて、トウヤ君の顔は見えない。

てゆーか仮にも学校の王子的存在なんだし、普通ここはお姫様抱っことかじゃないのか。これじゃ大工と木材みたいじゃない。

なんてことを考え、トウヤ君をじとりと見れば、視線に気付いたのか気付いていないのか、こちらを見ずに言った。



「もしかして、なんでお姫様抱っこじゃないんだ、とか考えてる?」
「!」



図星をつかれて私は黙り込む。きっとトウヤ君は分かってて言ってるんだろう。心底厭味な奴だ。でもそんな厭味なトウヤ君が、私は。

私は?
今、私はなんて思った?



「図星かよ。お前ごときが俺に姫抱っこしてもらえると思ってたのかよ」
「なっ!失礼な!」



言ってカラカラと笑ったトウヤ君に心臓が痛い。私じゃない誰かにトウヤ君はお姫様抱っこをしたの、かな?私にはキスだってしたくせに。



「…おい、聞いてんのかよ」
「…聞いてない」
「…お前、泣いてんの?」
「え?」



頬に手を当ててみれば、涙が伝っていた。それを意識すれば意識するほど、涙は溢れてくるばかりで。



「…なんで泣いてんだよ」



トウヤ君が困ったように言った。理由はあまりにも明白すぎた。



「…トウヤ君が分かんないからだよ」



溢れ出る涙を拭いながら言った。



なんで私に構うの?
なんで私にキスしたの?

なんで私を傍においたの?




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