私の一つ下の学年に生意気な後輩が一人いる。廊下で顔を合わせれば絶対に私をからかってくるし、仮にも先輩である私のことを名前で呼び捨てにしたりする。たまにきちんと呼んだかと思えば、からかうためだったりだとか。とにかく生意気な奴なのである。 「なまえセンパイ」 来やがった…っ! 嫌に綺麗な笑みを浮かべた後輩を見て、私は顔をしかめた。コイツがこんな風に私を呼ぶときは、たいてい良くないことを考えてるときだけだ。 「なに」 「珍しいですね。今日は逃げないんだ」 「だってどうせ逃がしてなんかくれないでしょう?」 いつも私が逃げようとすると、コイツは後ろから拘束してくる。腕を捕まれたり、肩を捕まれたり、たまに腰に腕をまきつかせて、抱きしめるみたいにするから困る。 だから逃げるのはやめたのに、これはどういうことですかね? 「…トウヤ君?」 「いつまで勘違いしてるの、アンタ」 私をゆるく抱きしめて、耳元でそう言ったトウヤ君に、肩を揺らす。 「なに言ってんの…」 「まじでからかってるだけだと思ってたの?相当マヌケなんですね、センパイ?」 その言葉に思わずカチンときて、細いけど硬い肩を押す。その刹那、さっきまで確認出来なかったトウヤ君の顔が見えた。 「俺、ガキだから、好きな子ほどいじめたくなっちゃうんですよね」 ニヤリと笑ったトウヤ君がそう言うのと同時に、腕をぐいっとひかれて、唇になにかがぶつかった。 「!」 「…ごちそうさま」 ペろりと唇をなめて離れたトウヤ君にびっくりして、私ははじかれたように走り出した。 「なまえ?!」 後ろでトウヤ君が私を呼ぶ声が聞こえる。でも私は振り返らない。そのまま全力で廊下を走り、階段をかけ上がった。 触れた唇がいやに熱い。頬も熱をもっている。きっと今の私はバカみたいに真っ赤だろう。 階段をかけ上がる ああ、熱い、 0815 schooldays様へ提出 |