「な、なんでしょうか…」 先ほどからずっと笑顔でなにも言わないトウヤ君におずおずと話しかける。顔はにこやかなのに、纏うオーラはどす黒く恐ろしい。 なんなの一体。私が何をしたっていうの。 そんな言葉が頭をよぎるけど、トウヤ君はなにも言わない。なにも言わずにこちらをずっと見つめている。そんなまっすぐな目線に耐えられるわけもなく、私はうつむいて鋭すぎる視線から逃れることにした。それでも感じる視線を無視し続けていると、急に背中に衝撃がはしった。 「痛っ…!」 突然の出来事に驚いて顔をあげると、驚くくらいに無表情なトウヤ君の顔が目の前にあった。そのさらに後ろには曇天が広がっていて、自分がドアに押し付けられたのだと気付いた。 「なあ」 「は、い」 その凄みを利かせるような声音に、言葉がつまる。ぎゅっと握られた手首が痛い。 「朝一緒にいた奴、誰」 「へ?」 凄みの利いた声とは対照的な、気の抜けるような質問に、私も気の抜けるような声を出してしまう。そんな私の反応に、トウヤ君が眉間にシワを寄せる。そんな彼の様子に、私は慌てて返す。 「お、幼なじみだよ」 「ホントに?」 「本当」 「ふーん」 「なにその反応」 「別に?」 言いながらトウヤ君は私の手首を握っていた手を解くと、屋上の淵まで歩いて行ってしまった。 「待っ…トウヤ君!」 「…なに」 顔と瞳だけでこちらを見たトウヤ君に、私は問い掛ける。 「なんでそんなこと、聞いたの」 「…ああ」 問えば、トウヤ君はこちらに近付いて、私の顎を掴むとゆっくりと持ち上げた。視線がかちあうと、トウヤ君はにやりと笑って言った。 「お前は俺のものだから」 「っ!?」 そして静かに私の唇にキスを落とした。 自分のものだと言いながら、まるで本当の恋人にするみたいに落とされたキスに、私まで落ちていってしまいそうでなんだか怖かった。 |