ブレーキ音をたてて自転車は止まった。 「ありがとうヒビキ」 「なまえさんの頼みなら断るわけにいきませんからね」 「先輩に対して敬意を表すってのはいい心がけだね!」 にっこり笑って言えば、ヒビキはなんだか複雑そうな顔をしたあと、くしゃりと笑って私の頭を撫でた。 「ほら、もう教室行ってください」 「え、でもヒビキ…」 「俺は別に大丈夫ですから」 「…分かった、またねヒビキ!」 私はヒビキの言葉に甘えることにして、玄関へ向かった。時計を見れば時間は8時。まだまだ余裕がある。 「なまえさん!」 ヒビキに名前を呼ばれ、振り返る。ヒビキは真剣な眼差しで私を見ていた。 「どうしたの?」 「気をつけてくださいね」 「うん?」 私は曖昧に微笑むと、玄関へと走った。 × 自転車を所定の位置に置いて、カバンを持って教室に向かおうとすれば、女子達が固まって歩いていた。それは当たり前の光景だし、普通に通り過ぎようとしたが、ある名前が聞こえてきてそちらに耳を傾けた。 「トウヤ君に彼女?!」 「うん。みょうじなまえって言うんだけど、昨日1組の子が騒いでてさー」 「…最悪」 「3組のエリコがその内呼び出すとか言ってたよ」 「まあいいザマじゃないの?」 「何の話ですか?」 コソコソ話し、嘲笑する(恐らく)先輩たちににっこり笑いながら声を掛ければ、びくりと肩を揺らしながらこちらを見た。 「え、あ…」 「あのー、ねえ?」 そんな風に口ごもりながら顔を見合わせる先輩たちの表情は、困惑に満ちていた。 ああ、なんてバカらしい顔だろう。 「そのエリコさんって人に言っておいてもらえませんか?」 そこで一拍おいて、最高の笑顔を作ってみせる。先輩たちの顔はますます強張った。 「なまえさんになにかしたら、僕らが容赦しませんからね?」 先輩たちは顔を青ざめながら、その場から逃げるように去って行った。その姿は不格好で情けなさすぎて、イライラを抑え切れず、小さく舌打ちをして、教室へと歩きだした。 |