トウヤ君のカバンは嫌がらせかというくらい重かった。 「ああ、それ辞書3冊くらい入ってるから」 「さっ3冊!」 ありえない。どうりで重いはずだ。ていうかこんな重いの女の子に持たせるなんてどういう神経してるんだコイツ。 「みょうじ」 「えっ」 急に呼ばれたかと思えば、いきなり頭をパシンと叩かれた。 え、なに 「痛いです」 「お前が失礼なこと考えてる気がした」 なぜ分かったんだコイツ。 呆然と立ち尽くす私を置いて、トウヤ君はすたすた歩いて行ってしまう。 「ちょっと待ってよ!」 急いで追いかければ、遅い、と一言。元はといえばトウヤ君のせいなのに。 「お前ってさ」 一拍おいて言葉を紡ぐ。 「バカだよな」 「なっ!」 驚きに口をパクパクさせながらトウヤ君を見つめれば、間抜け面、と言っておでこをつつかれた。 …地味に痛い。 「まあ俺はバカは好きだよ」 にっこり笑うトウヤ君に喜んだらいいのか悲しんだらいいのか分からない。 嫌われてないだけいいのか?いや、でも、バカって… うーんと首をひねる私を楽しそうに見ていたトウヤ君だったけど、それに飽きたのかこれまた勝手に歩きだした。 「あ、ちょっと!」 重たいカバンを揺らしながら走る。辞書が3冊入ったカバンは鉛のように重い(鉛の重さなんて知らないけど)。 もう嫌だこのカバン。 「みょうじ」 必死に追いついた私の腕を掴みトウヤ君はにやり。あ、やばいと思ったときには遅かった。 「ん〜っ!」 唇に噛み付くようにキスされて必死に逃げだそうとする。そんな私を、これまた楽しそうにじわじわと塀へと追い詰めると、角度を変えて何回もキスが降ってきた。両腕はトウヤ君によって拘束されていて、逃げように逃げられない。舌を絡められて、なんだかとろけてしまいそうだ。 「ん…ふうっ」 「…なまえ」 とうとう自分の力じゃ立てなくなって、トウヤ君にもたれかかれば、優しく髪を撫でられて、触れるだけのキスを落とされた。そうしてしばらく経って唇を離される。息があがってしまってしゃべれない私の口元についた、どちらのものか分からない唾液を親指で拭うと、トウヤ君はにやりと笑って言った。 「この間の仕返し」 びっくりして目を見開く私にもう一度だけキスをすると、自分のカバンを軽々持ってすたすたと歩いて行ってしまった。ふと気付くと、自分の家がもうすぐそこにあった。 「ていうか…」 名前、呼ばれた。 |