ゆめ | ナノ



抜き足差し足忍び足。

なんて言葉を頭に浮かべながら、奴に気付かれないように、暗い廊下を静かに歩く。途中で廊下がギシッという嫌な音をたてて、奴のお母さんにはバレてしまったけど、快く送り出してくれた。

お母さん、ありがとうございます。あとで一緒にお買い物行きましょう。

話がズレてしまった。現在私がいる場所、それは先程から私がずっと奴、と呼んでいる、幼なじみのヒビキの家。現在時間は23時55分。目的の時間まであと5分というところ。よしよし計画通りである。あまりにも計画通りにいきすぎて、部屋の前で私はにやりと笑った。そして音をたてないように、ゆっくりと部屋のドアを開いた。



「んー…」



ビクッ!

ドアを開けて部屋に入った瞬間に唸ったヒビキに、一緒身体をビクつかせる。どうやら寝返りをうっただけのようだ。とりあえず一安心。それからゆっくりのっそりとヒビキが寝ているベッドに近付いていく。時間は23時56分。よしよし、計画通りである。ニヤリと笑った私は、誰が見ても油断していたわけで、床にあったなにかに躓き、派手にすっ転んだ。



「ぐへっ」



床にうつぶせに倒れた私を容赦なく誰かが踏みつける。誰かなんて分かり切っているけど。そして部屋の電気がぱっとついて、パジャマ姿のヒビキが姿を現した。



「なにしてるの、なまえ?」



にっこり笑うヒビキが恐ろしい。ふとベッドに目をやると、ぽっこりと膨らんでいた。チクショー、最初から罠だったのか。



「あの、とりあえず解放していただけると嬉しいです」
「こんな夜中に、仮にも男である僕の部屋に侵入してる理由を答えてくれたら、解放してあげてもいいよ?」
「う…」



現在時刻は23時58分。計画通りとはとてもじゃないけど言えない状況。それどころか、機嫌もなんだか悪そうである。



「分かった。話すから!話すから離して…っ」
「なんかややこしいな…でもまあいいか」



言ってヒビキは私の上から足を退けた。今更だけど、仮にも女の子の背中を踏みつけるなんて、どういう神経してるんだコイツ。



「で、なに?」
「うん。あのね…」



言いながらチラリと時計を見る。現在時間は23時59分53秒、4、5…



「ヒビキ」
「ん?」



秒針がちょうど12を差したと同時に、私はぎゅっと目を瞑って、ヒビキのほっぺたにキスをした。



「お誕生日おめでとうヒビキ」
「…それ反則」
「え?…ひゃっ」



ベッドに私を押し倒してヒビキはニヤリ笑う。嫌な予感しかしない。



「誕生日プレゼントは?…もちろんなまえに決まってるよね」
「え?ちょっと待っ…!」
「待たない」



ああもう…お好きにどうぞ!



スウィートビターラブストーリー



大好きなあなたに、甘くてちょっとだけ大人な味の、とてもとても幸せな誕生日を。





0721
ヒビキ君誕生日記念。お持ち帰りフリー。




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