「急とはいえ、僕が選んだ人です。だからみんなにも認めてもらいたくて…」 その言葉に、教室にいた男子たちはうんうん、と頷く。大方敵が減ったくらいに思ってるんだろう。しかし女子たちは違った。トウヤ君が言ってもなお、騒がしい教室。授業が始まるからと、先生が注意してるのに教室が静まる様子はない。 この調子じゃあ、授業も始まらないだろうな…。 「あーまじうるせえ。おい、うるせえから屋上行くぞ」 「え!?」 トウヤくんは誰も見ていないのをいいことに、非常に煩わしそうな顔をすると、私の返事を待たずに手を引っ張って屋上に向かって歩き出そうと、くるりと振り返った。それにならい、私も振り返り歩き出す。 「んぶっ!」 「…なにやってんの」 しかし振り返ったはいいものの、立ち止まっていたトウヤくんの背中に思いきり顔を打ち付けた。トウヤくんは呆れたような顔をすると、ぐいっと私の腕をひいて隣に立たせる。 「う、わ!」 一瞬、バランスを崩しそうになるも、なんとか体勢をととのえ顔を上げれば、正面にはチェレンくんが立っていた。 うっわ、イケメン! ポーっとチェレンくんを見ていると、無言でトウヤくんに足を踏まれた。痛い! 「トウヤ、どこにいくんだい?」 「別にチェレンには関係ないだろう?」 2人の間に黒いオーラが漂う。まあ主に普段の3倍にこやかなトウヤくんから発せられたものだけれど。 「関係なくない。君の成績が少しでも下がったりしたら、僕が君のお母さんに怒られるんだよ」 「下がったらって…下がったとしても君に負けたことはないんだからいいだろ?それに、僕の成績が下がったことなんて、一度もないし」 ピシリ…と2人の間に火花が散った気がした。 なにこれこわい。 思わず顔をしかめていると、チェレンくんが私に顔を向ける。 「ところでみょうじさん。どうしてトウヤと一緒に?」 「あ、ええと…」 口ごもる私の後ろから腰を通って腕が回ってきて、背中に温かさを感じる。それがなにかと気付くより先に、トウヤくんが口を開いた。 「僕たち、付き合うことになったんだ」 「だから邪魔すんなよ」と続けると、トウヤくんは私の手を握り歩き出した。私はというと、突然抱きしめられたことに頬を染めて俯くしかなかった。 「トウヤとみょうじさんが、付き合ってる…?」 チェレンはそう呟くと、口をぽかんと開けたまま、廊下で固まっていた。 |