ゆめ | ナノ



体育が終わると、下駄箱の中に手紙のようなものが入っていた。普段ならまさかラブレター?!なんて期待する私だけど、今回ばかりは事情が違ったようだ。私はとりあえず、一緒にいた友達たちに先に行ってもらうように言うと、上履きを手にとった。



「よくもまあ、こんな陰湿な真似が出来るよね…」



上履きの中に入れられた数匹の青虫を地面に落としながらポツリと呟いた。手の中に残ったのは、上履きと、明らかにおかしい真っ白い封筒だけ。私は静かに封筒の封を切った。



『今日15時。体育館裏で待つ』



体育館裏とかいつの時代よ?なんて思いながら、仕方なくため息をついた。

こういうのは行かないとより嫌がらせが増すだけだ。ビンタくらいは覚悟して、行くしかないよね…。

また一つため息をついて、私はその手紙をかばんに入れた。

そんな出来事が今から約3時間前の出来事。現在私は体育館裏に来ているわけなのだけれど、目の前には女の先輩が5人ほど立っている。私は壁に追いやられて逃げ場がない状況。

まずい。これはまずすぎる。



「アンタなんなの?」
「はい?」
「グリーン君とヒビキ君と仲良くしてるかと思えば、今度はレッド君って、調子づいてんじゃねーよ!」



いきなり声を荒げて私の横の壁を思いっきり蹴る先輩に、思わず肩を揺らす。

まずい、な。もしかしたらビンタじゃ済まないかも…。

中学時代にもこんなことが度々あったけれど、今ほどの恐怖心はなかった。ふと、ヒビキの顔が頭をよぎって、平和ボケしちゃってたのかも、なんて考えた。

顔に傷なんて作ったら、ヒビキは大騒ぎするんだろーな…。大慌てで私に駆け寄って、いつもみたいに「先輩!」って言って。

その姿を想像して、思わず笑いそうになる。なんだかとてもヒビキに会いたい。



「聞いてんのかよ!」



叫びながら女の先輩の平手がとんでくる。

怖いよ、嫌だよ



「…ヒビキ」



パンッ



体育館の裏に、乾いた音が響いた。でも、目をぎゅっとつむった私に痛みはいつまでもやってこない。恐る恐る目を開ければ、白い頬を赤くはらしたヒビキが立っていた。



「ヒビキ?!」
「へへっ、先輩、泣きそうな顔してますよ」



言いながら私の頬を撫でるヒビキを、呆然と見つめる。



「…ひ、ヒビキ、君」



ニコニコと笑いながら、私を愛おしそうに見つめるヒビキを、先輩たちが呼んだ。ヒビキはそれに反応しそちらに顔を向ける。



「あの…私たち…」
「ああ、なんだ。まだいたんですか」



早く消えてください、と笑顔で言ったヒビキに、先輩たちは、今にも泣きそうといった表情で去って行った。でも、そんなのもうどうだっていいの。



「えっ、先輩?!」



急に泣き出した私を、ヒビキが心配そうに見る。「どうしたんですか?」とか「怖かったです?」とかそんなことを聞いてくるヒビキに、私はひたすら首を振った。

嬉しい。ヒビキが来てくれて、すごくすごく嬉しい。でも、素直じゃない私は、そんなこと言えっこないんだよ。



「先輩…?」
「遅いよバカ。犬より忠実なんじゃなかったの…っ?」



首を傾げながら心配そうにこちらを見てくるヒビキに、思ってもいないことを言ってみる。するとヒビキは少し目を泳がせてからこう言った。



「え?あっ、ああー…。さ、三回回ってワンしたら…許してくれます?」



その言葉に私は首を振る。ヒビキの様子があまりにもおかしいので、ついつい本音が出てしまった。



「ぎゅってしてくれたら許す」



そんな私の肩をなにも言わずに引き寄せると、ヒビキは私をぎゅうっと、抱きしめてくれた。



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