「んんー、これってなんの卵なんだろう…?」 両手に卵を抱えて持って様子を窺っていると、それに呼応するようにそれがぶるりと揺れた。キョウヘイから卵をもらって約1ヶ月。最近、わたしが話す言葉に返答するかのように動くようになった。お母さんに言ったら、もうすぐ生まれるんじゃないかということで、その日を楽しみにしていた。 「生まれたら一緒に散歩しようね」 ゆるりと撫でれば嬉しそうに動いた。その様子が微笑ましくて、ふふふ、と笑みをこぼした。卵を撫でたり、ベットでごろごろしたりしていると、ふいに明け放った窓から風がびゅうと吹いた。心なしか、その風は暖かく、懐かしい匂いがした。 「なんだったんだろう…?」 不思議に思い、卵を抱き締めれば、一瞬で卵に亀裂が走った。慌ててベットに置けば、ゆっくりと、でも力強く、固い殻が破れていく。最後の一息…と祈るように見つめていれば、卵は綺麗に真っ二つに割れ、中から全身が青いポケモンが出てきた。 「わう!」 2本足で立ち上がって元気に鳴いて見せたそのポケモン。たしか名前は…。 「リオル!」 「がう!」 名前を呼べば嬉しそうな声で鳴いて、ぴょん、わたしの胸に飛び込んできた。ごろごろとのどを鳴らしてすりすりとすり寄ってくる姿がなんとも愛らしい。しばらくそうやってリオルと戯れていれば、ふいにリオルの耳の下についている袋のようなものがぶるぶると揺れた。その瞬間、ずっと嬉しそうにニコニコしていたリオルがやにわに走り出し、部屋の窓から出ようとする。慌てたわたしは思わずリオルの足を掴んでしまい、二人そろって床に倒れ込んだ。 「痛…。リオル、急に走り出してどうしたの?」 抱き起してやりながら問えば、リオルは身振り手振りでなにかを伝えようとしていた。なにを伝えたいのか全く分からないが、もしかして、と頭によぎった人物の名前を都合よく呟けば、リオルは嬉しそうにジャンプしだした。 「久しぶり、なまえ」 背後から、聴きなれた声がわたしを呼んだ。嬉しくって、ドキドキして、振り向けなくて、思わず逃げ出そうとするわたしの腕を、少し荒れたわたしより大きな手が掴んだ。掴まれた状態で走り出した勢いを殺すことができなくて、まるで雪崩れ込むように2人で床へと倒れこむ。 う、わあ…! 転んだ拍子に軽く打った後頭部をいてて、と抑えながら衝撃で閉じた瞼をゆっくり開けば、わりと至近距離にあったキョウヘイの真剣な顔に、思わず叫び声をあげそうになる。しかも、雪崩れ込むように倒れたせいで、不覚にもわたしがキョウヘイに押し倒されるような形になっていて、ますます逃げ出したくなった。 「逃げないでよ、せっかく帰ってきたのに」 「キョウヘ…」 そこまで名前を呼んだところで、キョウヘイがわたしを押し倒した体勢のまま、自分のおでこをわたしの左肩に寄せた。心臓が口から飛び出そうなくらいうるさく胸の内側をたたく。 「なまえ、ボク、チャンピオンになったよ」 「うん」 「旅に出る前に約束したよね、一番に会いに来るって」 「うん、そうだね」 キョウヘイは律儀にもわたしとした約束を覚えていてくれて、本当に真っ先に会いに来てくれたようだった。 「旅から帰ったら、なまえに真っ先に言いたいことがあったんだ」 肩からゆっくりと顔を上げてこちらを見たキョウヘイは、本当に幸せそうな笑顔でわたしを見下ろしていた。真っ直ぐに伸ばしていた両腕を折り曲げ、おでこがくっつきそうなくらい顔を寄せて、愛おしそうに言葉を紡いだ。 「なまえのことが、大好きだよ」 とこしえの愛を、捧ぐ 「で、返事は?」 嬉しくて泣きじゃくるわたしのほっぺたを両手で包み込んで、嬉しそうに問いかけてくるキョウヘイは、聞かなくてもわたしの返事が分かってるみたいだった。それがなんだか悔しくて、わたしも大好き、そう発しようとした言葉は、感極まったキョウヘイの唇に飲み込まれてしまったのだけれど。 ただいま、おかえり、だいすきだよ |