キョウヘイが旅に出てから3か月が経った。その間、たった一度も連絡がくることはなく、最近のわたしはもっぱら、今どこにいるんだろう?とか、可愛い女の子に囲まれて頬を緩ませてるんじゃないの?と考えている。自分から連絡すればいいものの、幼馴染として生活して十余年、悪態ばかりついて過ごしてきたため、わたしの中に巣くっていた天邪鬼という悪鬼は、それはそれは大きく成長していた。 「今なにしてるのかな…」 はあ、と大きくため息をついてからぼそりと呟く。もうわたしのことなんか忘れてしまっただろうか。 「誰が?」 「それはもちろん…」 と言ったところで違和感に気づく。あれ、わたし一体誰に話しかけて…。 「久しぶり、なまえ!」 ニコッと微笑みながらキョウヘイがわたしの真後ろに立って片手をあげた。いつの間にわたしの部屋に侵入したんだろうか。それより、年ごろの女の子の部屋に無言で侵入するなんてどういう神経しているんだろう。まあそれがキョウヘイらしいんだけれど。 「っていうか、こんなところでなにしてんの…」 「んー、ああ!」 言いながらキョウヘイは今まさに思い出しました、という感じでわざとらしく両手をパンッと合わせるとバックに手を伸ばす。一体なにが出てくるんだろう。 「はい、これ」 と言いながらキョウヘイがわたしの手に乗せたのは小さな卵だった。 「…これは?」 「ふしぎな卵だよ!」 にっこりと笑いながらゆっくり卵をなでる。きっとキョウヘイにはこの卵の中身が分かっているんだろう。そして、分かっていながらきっと教える気はないんだろうな。 「わたしにくれるの?」 「うん。なまえにあげる。昔から、ポケモン欲しがってたでしょ?毎日一緒にいて、毎日優しくしていれば、きっとその内生まれてくるはずだから」 「うん。ありがとう…!」 キョウヘイがくれた卵。そう考えると自然と笑顔になって、珍しく素直にお礼を言うことができた。 「…っ!」 「キョウヘイ?」 いつもだったら、お礼を言わなくてもどういたしましてと言うキョウヘイが、今日にかぎって何も言わないのを不安に思い、名前を呼ぶ。その声にキョウヘイはハッとしたのか、いつも通り、どういたしまして、と笑った。 「それじゃあ、ボクもう行くよ」 卵を撫でていた手を止め、キョウヘイは身体をくるりと返し、腰元についているボールを取り出した。どうしてわざわざ来てくれたのとか、今どの街にいるのとか、聞きたいことはたくさんあったけど、今更話しかける勇気は出なかった。でも、一言だけ、一言だけ伝えたい。 「キョウヘイ」 「ん?」 「が…がんばって」 勇気を出して、普段言えないようなことを言ってみる。キョウヘイはそんなわたしの言葉に一瞬フリーズしたあと、満面の笑みで頷き、ボールからウォーグルを出して、窓から飛び立っていった。 過去も未来もすべて、捧ぐ 「がんばって、だって」 ニヤける顔をそのままにそう言えば、ウォーグルは甲高い声で鳴いた。調子に乗るな、とでも言っているのだろうか。まさか、むしろ今までよりも、 「誰にも負けられないね」 早く、早く、たくさんの勝利を手にして、君を抱きしめたい。 |