私は暗闇が苦手だった。暗闇を進んでいると、まるで自分まで闇に溶け込んでしまいそうで、怖くて怖くて。だから私は暗闇が苦手だった。それなのに、暗闇の先に光がという希望があると分かってから、涙を流すことはなくなった。 常夜の闇を照らす、そんな強い光が。 × 暗い廊下を震える足で、音をたてないように慎重に進み、自分の隣の部屋のドアを開けた。きっと彼は、私の行動にすごく驚くだろう。暗闇の中、微かな寝息のする場所へ近付いていく。ゆっくりと上下する掛け布団に手をかけると、私はその中へ身を忍び込ませた。 「…トウヤ」 「…ん、なまえ…?!」 トウヤは案の定、すごく驚いていた。同時に、暗闇でも分かるくらいうろたえていた。 「…なにしてんだよ」 「…一緒に、寝ようと思って」 「俺言っただろ。これ以上近付かれたらもう止められないって」 そう言うトウヤの声は震えているようだった。私はトウヤを苦しめているのかな。でも私だって止められない。 これは、私の、決意だ。 「トウヤの言ったこと、私なりに真剣に考えてみた。でも、どうしたらいいか分からなくてさ。コトネに相談したんだ」 コトネという名前を口にした時、トウヤの眉が僅かに動いた。コトネが家に来たときのことを思い出したのだろう。 「私はまだ、自分ことが分かっていない。トウヤをどう思ってるのか、トウヤにどう思われたいのか。そのことをコトネに言ったら、どうしたいか、じゃなくて、どうされたくないか、で考えればって」 「どうされたくないか…」 「うん。だから私は、トウヤと二度と話せなくなるのは嫌だって、こうやって…トウヤに触ることが出来なくなるのは嫌だって、思ったの」 言いながらトウヤのTシャツをつかんだ。暗闇にも慣れてうっすらとだけれどトウヤの顔が見える。トウヤは、こんなに泣きそうな顔をする奴だっただろうか。 「だから俺の部屋に侵入したわけ」 「うん」 「馬鹿だろ。俺に襲われたらどうするわけ」 「どうしよっか」 「なんで泣きそうなんだよ」 分かんない、と言った私を抱きしめて、同じように泣きそうな声でごめんと謝るトウヤを、私はたしかに愛しいと思った。 「…答え、見えたよ、コトネ」 「…なんか言った?」 「なんでもない」 その日はトウヤに抱きついて眠りについた。 |