「あ」 「あ、えっとたしか、ヒビキ君」 「はい。こんにちは、トウコさん。それとなまえさん」 「うん。久しぶりヒビキ」 いつもどおり笑顔をむけてくるヒビキに、ニコリと笑って返す。そして隣にいたトウコに謝り、先に行っててもらうように頼むと、ヒビキに向き直った。そんな私の様子に驚いたのか、ヒビキは目を見開き、自分の髪をくしゃくしゃとかいた。 「なんか吹っ切れたみたいですね」 「やっぱり私が落ち込んでたのバレてた?」 「当たり前ですよ。何年幼なじみやってると思ってんですか」 「あれ?何年だっけ?」 はははっと笑ってそう返すと、ヒビキはすっと目を細めて私を見た。その様子に、頭にハテナを浮かべる。 「どうしたの?ヒビキ」 「でも俺は…ただの幼なじみだとは思ってませんけど」 「えっ?」 ヒビキのあまりに真剣すぎる視線に、なぜか動揺してしまう。ヒビキの行間が読めない。一人あたふたする私の様子に堪えられなくなったのか、ヒビキが口を開いた。 「なーんちゃって」 「えっ?!」 急にあっけらかんとした声を上げたヒビキに、私は驚きの声を上げた。 「よくもまあ、毎回毎回騙されてくれますね。ある意味関心ですよ」 「なっ!騙したの?!ひどい!」 笑いすぎて涙を流すヒビキに、私は非難の声を上げた。それでもヒビキはヒイヒイと笑っている。 「笑いすぎ!もう!私帰っちゃうからね!」 くるりと踵を反し校門へと歩きだす。しかし後ろからは、ヒビキの笑い声が未だ聴こえてくる。それを無視して歩いていると、ヒビキが笑いを含んだ声で私を呼んだ。 「なまえさん!」 「なによ!」 言いながら振り返ると、すぐ後ろにヒビキが立っていてビックリした。いつの間に移動したんだろうか。笑いは完全におさまったようで、穏やかな笑みでこちらを見つめていた。 「なまえさん」 「な、なに?」 「なまえさんには俺が…俺とシルバーがついてますから。なにがあっても大丈夫ですよ」 「…うん」 ヒビキの真剣すぎる言葉に、返事をするのが遅れてしまった。そんな私をくるりと振り返らせると、ヒビキは私の背中をポンッと叩いた。 「さ!行ってください!トウヤ先輩が待ってるんでしょ?」 「ど、どうしてそれを!」 「当たり前ですよ。何年幼なじみやってると思ってんですか!」 「あれ?何年だっけ?」 さっきと同じ掛け合いをして笑い合う。 「なまえさん。俺、なまえさんが大好きですよ」 「うん。私もヒビキが大好き」 「ははっ。ありがとうございます」 そしてヒビキが私の背中を再びポンッと叩き、私は歩き出した。ヒビキが送り出してくれた道。しっかり歩いて行かなきゃいけなくちゃ。私は小走りで、トウコの元へと向かった。 * なまえさんの背中を、手を振りながら一人見送る。それにしても、あんなカタチでしか好きと言えなかった自分が情けなくて、情けなくて、涙すら出ない。 それでも俺は 「大好きでしたよ、なまえさん」 |