ゆめ | ナノ



早朝、グリーンから電話がきた。奇跡的にも起きていた私は、急いでポケギアをとる。



「もっもしもし?」
『もしもし?なまえ、今日ひまか?』
「ひまだけど…」
『よし、じゃあちょっと付き合ってくれ。30分後に迎えに行くから』
「えっ?30分後?!」
『じゃあまた後でな』
「ちょっ…グリーン!」



ブツッ―と電話は無情にも切れた。

なんでこの世界の人ってこう…勝手なんだろう。

ポケギアを見ながらそんなことを思う。ふとディスプレイの時間を見て、30分後と指定されたことを思い出し、一気に焦りだす。

とりあえず、歯磨いて顔洗ってこないと!

バサバサと適当に服を出し、急いで一階へと向かった。

そういえば、グリーンの声がちょっとだけ元気なさそうだったけど、気のせいかな…?

するとすぐにお母さんの呼ぶ声が聞こえた。



「なまえーグリーン君来たわよー」
「えっ?はーい、今行く!」



30分後って言ったのに、グリーンのばかやろう。





×





「おっせえよ」
「痛いっ!グリーンが30分後って言ったんでしょ!」



文句を言いながら叩いてきたグリーンに向かって文句を言う。

ていうか地味に本気で痛かった。どうしてくれるんだこのやろー。それになんだコイツ。全然元気じゃねーかよ。心配して損した。

とりあえずイラッとしたので足を思いっきり蹴ってやれば、お返しとばかりに頬っぺたを右手で両側から挟まれた。



「ぷっ、ぶっさいく」
「う〜っ!」
「ほら、早く乗れ」



頬を挟まれたままボールからだされたピジョットに乗せられる。

えっ、なんですかこの状況。なんで向かい合って座って…?



「ピジョット、シオンタウンまで頼む」



正面を向いたグリーンと向き合う形で座らされ、そのままの状態でピジョットが浮き上がる。両頬はすでに解放され、頬を挟んでいた右手は、今は私の腰にある。

ていうか、これ、やばくないか?

ゆっくりと浮上したピジョットは、すぐさま物凄いスピードでマサラタウンの上空を目的地のシオンタウンに向けて飛んでいった。私は声にならない叫び声を上げながら、グリーンにしがみついた。苦笑しながら私を抱きしめるグリーンに安堵しながら、ふと気になったことを聞いてみる。



「ていうか、なっ、なんで、シオンタウン…?」



グリーンはその問いには答えずに微笑んだだけだった。





×





「…やっとついた」



長時間のフライトを終え、私は脱力して地面にしゃがみ込もこもうとする。そんな私の手を掴んで、グリーンはつかつかと歩いていく。結局空を飛んでいる間、グリーンは一言も話さなかった。あのおしゃべり大好きグリーンがだ。今日の彼はやっぱりどこかおかしいらしい。そんな彼の向かった先はポケモンタワー、所謂ポケモンのお墓である。

どうしてグリーンはここに…?

疑問を口に出さずに黙ってついていく。握られた手はいつもよりちょっとだけ冷たい。階段をたくさん昇ってついた場所、グリーンは迷わず進んでいく。そしてあるお墓の前で立ち止まった。



「ここ」
「…?」



その場にしゃがみ込み、ゆるりと白い石を撫でる。



「俺のラッタの墓」
「…へ?」



気の抜けたような声を出せば、グリーンは「なんつー声出してんだよ、お前は」なんて言いながら笑った。



「お前には教えときたかったんだ。こいつも、俺の大事な仲間だから」



そう言いながら、泣きそうに笑うグリーンを、力いっぱい抱きしめた。



「なまえ…?」
「…グリーン、ありがとう」



そんなに大切なことを私なんかに教えてくれて。

そう言ってグリーンに笑いかければ、少しだけ驚いた顔をして私の頭をペシリと叩いた。



「…いたいっ」
「ばあーか。なんでお前が泣いてんだよ」
「だって…」



だってと言えば、グリーンが大きなため息をはいて、くるりと踵を返した。



「どこ行くの?」
「か、え、る!もう用事終わったし」
「ええっ?!ちょっと待ってよ!」



言いながら追いかける。ふと、さっきのお墓が気になり、チラリと見てみた。



「えっ?」



一瞬だけど、ラッタがこちらに向かってお辞儀をしたような気がした。



「…なまえ!早くしろ!」
「…今行く!」



再び振り返ってみるが、その姿はどこにもなかった。

幻…かな?もしかして、本物のラッタの幽霊だったりして?

そう思えば、不思議と心があったかくなった。私は立ち止まり、ラッタのお墓を向いて言う。



「また来るね。君のご主人と一緒に」



そうしてまたグリーンの元へ走り出した。




0403
初代のあのラッタ死亡説より。
title.虚言症




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