ゆめ | ナノ



「ずっと、好きだったの…。私と付き合ってください!」



そう言って右手を差し出しながら、大きく頭を下げた女の子を見て、私は思わずおお!と声を漏らした。告白している子は、私のクラスの男子たちの中でも可愛いと噂の1年生の女の子。女の私から見ても可愛いと思うし、私が男だったら絶対に付き合うと思う。並の男子だったら絶対に告白されてラッキー!くらい思うんじゃないだろうか?でも私は知っていた。

告白されてる相手は、ヒビキだ。



「ごめん」



予想どおり、ヒビキはあっさり断った。

こんなとき、ヒビキは一体どんな顔をしているんだろうか?

気になった私は、ヒビキの顔をのぞき見ることにした。幸いにもここは裏庭。木だってたくさんあるし、見つからないはずだ。うひひひ、と変な声をあげて私は女の子の後方に回り込み、ヒビキの顔を見る。瞬間、まるでタイミング見計らったかのように風が吹き、木々を揺らした。



「俺、好きな人がいるんだ」



揺れた木のせいで、2人の様子がよく見えない。



「ヒビキ君に好きな人がいることくらい知ってたよ。私はね、今日フラれにきたんだもん」



女の子が明るい声で話しているのだけがよく聞こえた。



「だからね、諦めるから、最後に私にキスしてくれないかな?」
「キッ?!」



女の子が言った言葉に、私は思わずキス?!と叫びそうになった。最近の女の子は積極的だなーと感じるのと同時に、心になにやらもやもやが生まれた。

ヒビキはキス、するのかな?

なんて、いつもヒビキをてきとうにあしらっている私が気にしてはいけないんだろう。でも私、おかしいのかも。嫌、だなんて。



「ねえ、お願い」
「…ごめん」



その時、ざわついていた木々の隙間から、ヒビキの表情が見えた。



「キスは出来ない」



ヒビキの真剣すぎる表情に、私は思わず息をのんだ。

ヒビキでも、こんな顔をすることがあるんだ…。



「そう、だよね。ごめん、変なこと言って…。じゃあね」



女の子はそう言うと、校舎の方へ走って行った。私は、さっきのヒビキの表情が頭から放れなくて、ヒビキの姿をボーっと見ていた。





×





「先輩、そこにいるんでしょ?」



放心していた私の耳に、聞き慣れた声がする。ぱっと顔を上げれば、にっこり笑ったヒビキがこちらを見ていた。まさかばれてたなんて。



「先輩隠れるのへたですね。まあ、どんなに上手く先輩が隠れようと、俺なら絶対に見つけますけど。先輩?」



ふと気付けば、ヒビキのYシャツをぎゅっと握っていた。珍しくびっくりした様子のヒビキに少し焦りながら手を放す。



「先輩」



ヒビキが私を呼びながら手をぎゅうっと握ってくる。ちょっとだけ痛いけど、今はそれが逆に嬉しかった。



「あんな可愛い子、フっちゃってよかったの?」
「先輩より可愛い子なんかいないですよ」



ヒビキはにっこり笑いながら私の肩を引き寄せる。ぎゅっと抱きしめられて、ヒビキの胸に顔を押し付けた。



「今日は素直なんですね」
「気分よ、気分」



言いながら、ヒビキの匂いが鼻をかすめる。ヒビキは太陽みたいな匂いがした。あたたかい体温にむしょうに泣きたくなる。



「本当に良かったの?」



言ってYシャツを握りしめれば、ヒビキは私の背中をぽんぽんっ、とたたいて言った。



「だって、先輩以外とか考えられないし!」



言って、ははは、と笑ったヒビキにまた泣きそうになった。

どうしよう。
私、ヒビキが好きみたい。




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