「トウヤ!トウヤったら!こら、トウヤ!起きてってば!遅刻しちゃうよ!」 「んー」 「んー、じゃなくて。早く起きなさい!」 「…うるさい」 「きゃあ!」 突然、腕を引っ張られ、布団に引き込まれ、ぎゅうっと抱きしめられ、私は困惑した。 「えっ、ちょっと。なにしてんのよトウヤ」 「…んー?」 「寝ぼけてる場合じゃなくて、離しなさい!」 離せ!と言えば言うほど強くなっていく腕の力に、私は真剣に焦りだす。このままじゃ私まで遅刻してしまう上に、トウヤは弟とはいえ、この間まで赤の他人だった、れっきとした男で、しかもイケメンだ。このままじゃ、真剣に私の心臓がもたない。 「…離さないトウヤが悪いんだからね」 最初に言い訳を述べてから、私は唯一自由だった右手を振り上げた。 × 「…だからといってビンタはありえねー。ビンタは」 あれから私の黄金の右手が炸裂し、トウヤの左頬に私の手形がバッチリとついた。朝食を口に運びながら文句を言うトウヤに、私は同じ言葉を繰り返す。 「自業自得だ、バカ」 「でもやっぱりビンタはねーよ。どうすんだよこの紅葉模様」 「可愛くていいんじゃない?」 「じゃあお揃いにしようぜ?右頬出せ、ほら」 言いながら左手を上げるトウヤに、テーブルの下から蹴りを食らわす。 「いってーなあ。冗談だバカ」 「知ってるわアホ」 私の返答に、トウヤは愉しそうに笑うと、カバンを持って立ち上がった。 「もう行くの?」 「ん。一緒に行く?」 「行く。待ってて、片付けちゃうから」 「手伝う」 「じゃあこれ運んで」 食器を片付け終えると、私もカバンを持って、玄関をくぐった。 「いってきまーす」 「いってきます」 2人で一緒に家を出て、2人で一緒に学校へ向かって、そんな日が幸せだと思う、今日この頃。 |