今思えば、あの日の俺は、少しだけイライラしていたのかもしれない。 「じゃあね、ヒビキ!」 「はーい!それじゃあ、また後でー」 朝の自転車置き場。慣れたように交わされる言葉に、虚しさと、悔しさが沸き上がる。自分でも分かっている。これは嫉妬だ。密かに想っている彼女と、名前も知らない後輩を見て、なにも出来ないくせに嫉妬心を燃やして。 「情けな…」 ボソッと呟いた声が、広い廊下に反響した。するとふいに、英語教官室のドアが開き、クラスの男子共が綺麗だと騒いでいた教師が姿を現した。俺はいつものように、はりつけた笑顔で挨拶をする。 「こんにちは、先生」 「こんにちは、トウヤ君。ちょっと話があるんだけど、部屋に来てくれないかしら?」 「分かりました」 俺はその言葉に了解すると、ソイツの誘導するままに、教官室に入った。しかし、その後の状況に目を丸くする。 「…先生?」 「ねえ、トウヤ君。私と楽しいコト、しない?」 俺をドアに追いやって、ニヤリとやらしく笑うソイツに、イライラが沸き上がる。 まあでも、ちょうどいいか。 「いいですよ」 そうして俺は、ソイツの服に手をかけた。その5分後、アイツが見に来るなんて、思いもせずに。 見られたと分かった瞬間、頭が真っ白になった。 もしかしたらはじまる前から嫌われたかもしれない。そんなのはゴメンだ。 女教師を突き飛ばし、シャツのボタンが外れてることさえ気にしないで俺は走った。走って、アイツの背中を見つけた瞬間、その細い手首を掴んで、壁に押し付ける。顔を寄せた瞬間、シャンプーの甘い匂いが香る。少し怯えたような瞳に、くらりと目眩が起きて、このまま襲ってしまおうかと思った。 「見た、よね?」 「え、あの…っ」 「見たんだな?」 歯切れの悪い言葉をさえぎり、言葉を続ける。その小さな唇にかじりつくようにキスをして、言葉の鎖を嵌めれば、完成する。 「お前、今日から俺の下僕な」 さあ、物語のはじまりだ。 |