ゆめ | ナノ



私が7歳くらいのとき。学校の帰り道、探険ごっこをはじめた私は、知らない道に入っていくあまり、自分がどこにいるのか分からなくなってしまったことがあった。



「どうしたの?」



困惑して泣いている私に、優しく声をかけてくれたのは、私と同じくらいの年の男の子。道が分からなくなってしまったと説明すれば、その子は優しく頭を撫でたあと、私の手をひいて歩き出した。



「大丈夫、君を連れてってあげる」



太陽の光であまり見えなかったけれど、見上げた顔は柔らかく微笑んでいて、温かくて、あの頃の私には王子様に見えた。



「あ!ここ、知ってる!」



黙ってついていけば、見慣れた場所が見えてきて大声をあげた。男の子は握っていた手を離すと、再び私の頭を撫でる。



「よかったね。もう迷っちゃダメだよ」
「うん!ありがとう!ねえ、私はなまえ。あなたの名前は?」
「僕?僕はね」



男の子が名前を言ったすぐ後、お母さんの声が聞こえた。どうやら私を探しに来てくれたみたい。私はその子にお礼を言ってから、お母さんの手を握って、無事に家まで帰った。

これは小さかった私の、小さな小さな初めての恋のおはなし。今まで忘れていたこのことを、どうして今になって思い出したんだろう?





×





「起きろ」
「んー…」
「起きろ!ばか!」
「んっ、いったあ!痛い!」



いきなり頭にきた衝撃で私は目を覚ました。正面を見れば、ドアップで映るトウヤ君の綺麗な顔。それを押し返して、私は叫んだ。



「ちちち、近い!!」
「うるさい。人ン家に来て寝てるお前が悪い」



私に向かってあっかんべーをするトウヤ君が可愛くて、色々どうでもよくなってきた。ごしごしと目を擦ってから身体を起こせば、トウヤ君が後ろから抱きしめてきて、肩に顔をうめる。



「トウヤくーん」
「んー?」



背中を伝って聞こえたくぐもった声が可愛くて、頬が緩む。



「トウヤ君の初恋っていつ?」
「俺?小1」



意外とすぐに帰ってきた答えにびっくり。トウヤ君にも初恋とかあったんだなあ。



「どんな子だったの?」
「チビでバカで泣き虫で、どうしようもないやつだったよ」
「なにそれ、最悪じゃない」
「うん、最悪」



最悪と言いながらとてもとても嬉しそうに話すトウヤ君を見て、なんだか悔しくなってきた。押し黙る私にトウヤ君は気付いたようで、ふいに頬を両側から引っ張られた。



「…いたい」
「なにヤキモチ妬いてんだよ」
「妬いてない」
「妬いてんだろ」
「妬いてない!」
「お前必死すぎるだろ」



言ってぎゅっと抱きしめるのを強くされたら、なんだかどうでもよくなってしまった。だって、今傍にいるのは他の誰でもない、私なんだから。



「…会えるもんだな」
「え、なに?」
「なんでもない。こっちの話」



ふいにトウヤ君が呟いた言葉に振り返れば、なんでもないって言いながら、にっこりと微笑んだ。その顔が、私の初恋の子と重なったけれど、気のせいだと、トウヤ君の肩に身体をもたれさせた。



小さな私の小さな恋



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