「なまえ」 「はい」 N様の部屋の掃除をしていたら、突然声を掛けられた。振り返ろうとすると、後ろから羽交い締めにされる。 「N様?!」 「なまえ、もしも僕が君を好きだって言ったら、どうする?」 「!!」 私は驚いて持っていた箒を倒してしまった。音をたてて、倒れた箒が畳を転がった。肩を抱かれる腕に、力がこもる。震える手で腕を掴み、引き離そうとした。 N様と私は主と部下だ。前提として、私達が結ばれることなど出来ない。N様はきっとそのことを分かっているはず。それなのに、どうしてそんなことを聞くの? 「なまえ。僕は…」 「N様。それ以上言っては駄目です。私は部下、貴方は主。分かって下さい。女である前に、私は貴方の部下なのです」 言い切って、N様の腕から逃れた。 「そうだね。余計な心配をかけたね。さっきのは忘れて」 痛々しく微笑んだN様が堪らなく愛しくて、私は自分が言ったことを後悔した。 本当は、私だって貴方が好きなのに。 「でも、これだけは忘れないで下さい。貴方はたったひとりの大切なお方です」 気付いたらそう言っていた。きっと私の言葉は、貴方を傷付けるでしょう。貴方は私の言葉の本当の意味など知らないのだから。 「うん」 やっぱり貴方は辛そうに笑いました。きっと私が貴方と同じ身分だったら、貴方に辛い思いをさせることはなかったのに。 「せめて、ずっと僕の側にいて。それが君の役目ならば」 最後に貴方は小さな声でそう言った。 ロミオとジュリエット 貴方が主じゃなかったら、私は迷わずその手を繋げたのに。 1013 気に入ってたので、前々サイトより修正転載。しかしN。 title.確かに恋だった |