ゆめ | ナノ



パンッ

なにかを叩いたような乾いた音が、公園内に響いた。次いで誰かが怒鳴るような声が聞こえ、私は歩く速度を上げた。この公園はホテル街のすぐ近くにあり、薄暗いため、夜中などにカップルたちが沢山いることで知られている。カップルといっても、一夜限りの関係だったりとか、浮気だったりとか、そんなのばかり。だから出来ればこの公園は通りたくないのだけれど、ここを通らなければかなりの遠回りになる。仕事帰りの身体にとって、いち早く休息をとりたいもの。



「浮気なんてサイッテー!」
「あたしはそれでもトウヤが好き!」
「私も好きだよ」
「私も。トウヤに全部あげてきたもん」
「あたしだって!」
「ねえ、トウヤ君はだれが好き?」



6人の女の子を前にして佇む男と目が合い、私は今になって、こんなことなら遠回りすればよかったと後悔した。



「ねえ、トウヤくっ…!」
「うるさいな」



ニコリと綺麗な笑みを浮かべて、ゾッとするような声を出した彼に、目の前の女の子たちが怯むのが、背中を見ただけで分かった。それを満足げに見た彼は、そのままつかつかとこちらに歩いてくると、私の肩を抱き寄せて言った。



「俺が好きなのは、コイツ」



だからもう消えて。そう言って不敵に笑った男と、こちらにとんでくる数々の罵声に、私は泣きたい衝動にかられた。



「だからさー」



その時、甲高い声の中に響いた低い声。



「うざいんだよね。お前ら」



その声を、言葉を、聞いた女の子たちは、全員こちらを見ることなく、去って行った。



「あー。まじうざかった。女ってコエー」
「…トウヤ」



ははは、と笑う男の名前を呼べば、くるりと私に向き合うように正面に立ち、



「久しぶりだね。なまえ」



そう、悪戯な笑顔で言った。



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