「せんぱあああああい!なまえせんぱあああああい!」 ものすごい速さで廊下を走る音が聞こえたと思ったら、すぐに教室のドアが開く音がする。またか、とドアに視線を向ければ、満面の笑みでこちらを見るヒビキの姿。 「先輩!こんにちは!今日も可愛いです!」 「うん、ありがとう」 「まじで可愛いです」 「うん」 「先輩大好き!」 「はいはい」 あいさつしながら私の腰に抱きついてきたヒビキをゆるく引きはがしながら、私はてきとうに相槌を打つ。それが不満だったのか、ヒビキはほっぺたをぷっくり膨らませた。 「なによ」 「先輩、いっつもてきとうに相槌打ってばっかですよね」 「まあ、そうだね」 そう言えば、より不満そうにほっぺたを膨らませたまま、俯いてしまった。腰にまわってた腕は離れて、人差し指と人差し指の先を合わせてうじうじしている。その姿を見て、一瞬である動物が頭に浮かんでしまう。 「ヒビキ、飼い主に怒られた子犬みたい」 そう言ってくすくす笑えば、ヒビキはばっ!と顔を上げた。 「ちょっ、ひどい! 俺真剣なのに!」 「だって…っ、ヒビキ可愛いんだもん」 さっきのヒビキの様子を思い出すと、どんどん笑いが込み上げてくる。考えれば考えるほど、ヒビキが子犬に見えてくる。私が一人笑っていると、顔を赤らめたヒビキがボソッと呟いた。 「可愛いのは俺じゃなくて先輩の方っスよ…」 「ん?なんか言った?」 「…なんでもないです!」 ヒビキはそれだけ言うと、これまたものすごい速さで教室を出て行った。 |