ゆめ | ナノ



3月11日、今日はポケット高校の合格発表の日。窓から外をのぞくと、真新しいには程遠い、年季のこもった学生服を着た中学生たちが、緊張した面持ちで正面玄関に向かっていくのが見えた。ふとそんな光景を見ていて思うことが一つだけあった。

アイツは合格したんだろうか。

その考えを振り払うように首を大きく左右に振る。別にアイツが合格しようと合格しまいと私には関係ない。気にしない。考えない。よし、なにも考えるな。私は貝になるんだ。よしよし、いいぞその調子だ私!



「なにやってんだお前」



必死に貝になろうと目を閉じて机に顔をふせて丸くなる私の頭に、聞き覚えのある声が降ってくる。顔をあげると、グリーンがこちらを見ていた。



「ボンジュール、ウニ野郎」
「なんだお前喧嘩売ってんのか?買うぞ」
「ごめんなさい」



頭部をがっしり掴まれ、力を込められれば、自然と謝罪の言葉が出てくる。まったく嫌な力関係が出来たものだ。



「グリーン」
「なんだよ」
「痛い。いい加減離せ」
「離してください、の間違いだろ?」
「離してくださいやがれ」
「おい、なんか余計なのついてるぞ」



なんてやりとりをしながらしゃべっていると、グリーンが思い出したように話し出した。



「そういえばもう知ってるかもしれないけど」
「うん?」
「今年の合格者の中に」



グリーンがそこまで言ったところで廊下から誰かが走ってくる声が聞こえて、そちらに顔を向ければ、勢いよくドアが開いた。



「せんぱあああああい!なまえせんぱあああああい!聞いてください!俺、受かりましたよおおおおお!!」
「ヒビキの名前があったってよ…って、今更言っても遅いか」



犬のように走って私に飛びつき、ぎゅうぎゅうと抱きついてくるヒビキを呆然と受け止める私を苦笑しながら見て、グリーンが呟いた。





×





「ヒビキ」
「はい!」
「合格発表の後って普通受付とかするんじゃないの?」
「1番乗りで行ってきたんで心配ないです!」



正面に正座させて問いただすように言えば、ヒビキは誇らしげに言った。にっこり笑う顔も、左手の敬礼のポーズも、無駄にかわいいからむかつく。


「で、なんでここにいるの?早くお母さんに報告した方がいいんじゃない?」



とは言ったものの、ぶっちゃけ早く帰って欲しいだけだった。ただでさえ私はグリーンと仲がよくて、女子たちから冷たい視線を浴びせられまくってるっていうのに、ヒビキみたいな可愛い男の子に懐かれてるなんて知られたら、余計に睨まれるだけだ。だから早急に帰っていただきたいのだけれど…。



「だって…」
「…だって?」
「先輩に一番に言いたかったんです!俺、先輩のために頑張ったんですからね!」



目で撫でろと言っているヒビキの頭を撫でて、私はため息をはいた。そんな私をよそに、ヒビキは嬉しそうに、にこにこ笑っていた。



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