佐藤先生と脹相は相性がいいらしい。
 気が合うんだ、と前に聞いたら、なんだかもごもご言っていた。気が合うんだ、そっかあ、ふうん、とその時は流したけれど。
 なんか。
 最近、二人から、男と女を感じる。
 俺が感じるんだから伏黒も釘崎もだろう。
 あのさあ、とこそこそ伏黒に話しかけたら何故か頭を叩かれた。黙っとけとのことだった。こういうところ女の子にうけるんだろうな。そう思って釘崎のところにこそこそ話しかけにいったら、やっぱり頭を叩かれた。
 同期、二人とも女うけがよさそう。

 黙って楽しむらしい二人とは違って、俺はどうも納得がいかないというか、若干半信半疑だった。だって脹相は正直、おっかないし。女を好きになるような……入れ込むやつじゃないだろって。
 佐藤先生は若くて愛嬌がある感じで、先生っていうより先輩っていうか。でも、きちんと先生してくれてるし。いい人だなって思う。真正面から接してくれるとことか、好きだなって思う。
 いい人だなって思うから、あんまり可哀相なことにはならないでほしい。
 脹相だって悪い奴じゃないってわかってるけれど、まあ、色々と訳アリだし。
 と、思うわけだ。まあ、俺の兄貴なんだけど。
 

「脹相は女に興味ないの」


 まずはジャブを打ってみることにした。
 俺の部屋で、女のポスターを指差しながら。脹相に問いかける。脹相は死んだ魚みたいな目をしている。興味無さそう。


「然程ない」
「さほど」
「悠仁はこの女を抱きたいと思うのか」
「抱きたい……? えー、まあ、魅力はあるかな。ケツ大きくて」
「そうか」
「……抱きたい女とかいるの?」


 なんかこれすごい雑な会話してるな。兄弟ってこんな会話するのか?
 脹相は相変わらず死んだ目だ。「なんだ悠仁、欲求不満か」と、のらりくらり躱される。ちげーよ。
 別に佐藤先生のことを性的に見てるわけではなさそうだ。……本当か?


「じゃーさ。大人な魅力の女ってよくない?」
「身近にいない」
「ああ……そうね」


 まあ申し訳ないけど、佐藤先生は大人な魅力って感じはしない。ちょっと違う角度からいくことにする。


「好きな女の子と結婚して、嫁さんになってもらって、家族つくってさ。いいよなそういうの。俺の体こんなんだけど」自分で言ってて嫌になってきた。
「家族ならここにいるだろう」そういう返しが欲しいんじゃなくて。
「まあ、家族が増えるのも悪くはない」おっ。

「だよなー。ほら、嫁さんになってほしい人とかいないの」
「悠仁はどうなんだ」
「俺のことじゃなくて脹相は」
「いないな」
「……佐藤先生とかどうなの?」


 結局、右ストレートを打ち込んだ。


「沙都か」
「えっ。あ、うん」


 下の名前呼びに驚きと手ごたえを感じる。やっぱこれそういうこと?


「悠仁は、先生のような女が好みなのか?」
「ええ。いや。いや、というか、うーん、いい人だとは思うけど……」


 どちらかというと、親戚の姉ちゃんみたいな。居ないけど、もしいたら、お姉ちゃんかなって。ごにょごにょ茶を濁すように言葉を返せば、そうか、と脹相は頷いた。


「お姉ちゃんなのか」
「ああ……まあ」
「俺のこともお兄ちゃんと呼んでくれとこれだけ」
「あーいいからいいから」


 とにかく、佐藤先生は先生だよ。俺にとっては先生。
 話をそらされた。結局脹相は、佐藤先生のことどう思ってんだろう。


「脹相、佐藤先生のことどう思ってんの」


 もう一度問いかけると、脹相は暫く黙ってから。


「俺がお兄ちゃんで沙都がお姉ちゃんか」
「まだ言ってんの……」


 なんか考え込んでいて大変そうだ。
 沙都って呼んでるところは非常に気になるんだけど、それ以上に兄貴として心配になってきた。もういいや。とにかく、先生が可哀想なことにならなきゃいいや。可哀相なことしたら、そんときは兄弟喧嘩になるだろうけど(そもそも一応兄貴というだけで兄弟だと周囲に明言した覚えは、俺は、ない)。
 話を切り上げて、今日はすき焼きでも作ることにする。伏黒、釘崎、早く来てくれ。




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