「段々わかってきた」
九十九は沙都のご満悦そうな表情に乗せられてニコッと笑う。
「同じ牌とか……並んでるやつ…二つ三つ合わせる」 「そうそう」 「ツモ! で勝てる」 「ツモったらね」 「いらないの捨てる」 「うんうん」
九十九は沙都の話を聞いてから、ふうと一息ついて、「沙都にはとことん難しいんだね」と納得して見せた。沙都は「そんなぁ」と嘆息する。
「ちょっとわかってきましたよ?」 「うん。わかってはきたよね」 「牌を読めるようになりました!」 「そうだねえ」
沙都のぴぃぴぃ鳴く声を、脹相が賢くて霞んじゃうのさ、と九十九は素気なくかわした。そうなると沙都は口をぴったり閉じるしかなかった。 麻雀は四人で遊んだ方が楽しいというから、沙都は九十九の話を聞いて、なんとか覚えよう覚えようとついてきたつもりだった。沙都は年頃の女にしては飲み込めている方だけれども、脹相は頭一つ抜けていたのだ。 脹相は九十九の言ったことを全て飲み込み、すいすいと遊べるようになっていた。九十九が「やるねぇ」と口笛を吹く程には頭が冴えていた。沙都には何が「やるねぇ」なのかわからない。正直ちんぷんかんぷんなのだった。 三人で遊んでいるのをじぃっと見るため、天元の後ろの椅子が沙都の定位置だ。残念だけれど、見ているとコソコソと九十九や天元が解説してくれるので、それもまた面白くて、満足していたのだった。
「もっと勉強しなきゃだめか。九十九さん今度マンツーマンで指導してくださいね。ここ出たら硝子さんにも声を掛けてみようと思います」 「向上心は大切だよ。勿論。今すぐにでもいいけれど」 「ちょっと頭が疲れてきちゃった」 「また、声掛けて」
九十九さんはさっぱり笑ってくれた。沙都は美女のさっぱりとしたところが格好良いのと可愛いので、大好きだった。
「……他の遊びは無いのか」
沙都と九十九のやり取りに口を出したのは、脹相だった。
「おっ。いいねえ脹相。トランプとかは好きかな?」 「トランプならできる! トランプならできます!」 「天元、トランプだってー」
天元と九十九が準備に席を外すと、脹相から「トランプはわかるのか」と声を掛けられた。神経衰弱が得意だよ、と話すと、ならばそれをやろうと机に肘をついた。
「脹相は、沙都に甘いね。一緒に遊びたいんだ?」
戻ってきた九十九にからかわれると、脹相は何でもない顔で「負かすと面白い顔をするからだ」とのんびり答えた。最初にやった麻雀は兎に角もうボロボロで、沙都はええと…ええと…と狼狽えながら興じていたのだった。 沙都はむっと口を尖らせる。
「神経衰弱ならね、負けませんよ」 「まずはルールを教えてくれ。どんなゲームなのか」
何でもない顔を作る脹相に、三人はほのぼのする。この間まで瓶詰にされていたから、何をするにも興味がそそられているのだろう。 「脹相はさ、今にもっと物知りになるよ」と沙都が笑えば「当たり前だ」と欠伸するのだった。
「虎杖くんもこういう遊び好きだったなー。パチンコとかもしてたみたい。あんまり大きい声じゃ言えないけど……」 「パチンコ。それはここでもできるのか」 「薨星宮はレジャー施設じゃない」 「ごめんなさい天元様」
束の間の休息だった。
back |
|