脹相と天元と九十九と、沙都で。じゃらじゃらと音を立てさせる。麻雀というらしい。家入さんから、言葉だけは聞いたことのある遊び。
 沙都は大人な遊びに誘われて、どうしようできないよ、と助けを求めるように脹相を見た。脹相は手を顎に添えて、以前真人がしていたのを見たことがある、と話す。忌み嫌う名前だった。嫌悪感が顔に出ていたのかもしれない、脹相は沙都の顔を見てから、少し目を伏せた。


「いいのかな。こんなことしてて」
「本当にな」


 暫くの間じゃらじゃらと。音をさせていたのだった。



‐‐‐



「熱っ」


 お茶がこぼれた。淹れたてのそれは、かなり熱くて。ああ、と九十九が声を上げる。タオルあるかなあ、ちょっと待っていなさい、など、どこかの家族みたいな会話をした後で。


「え、えっ」


 一人、異質な挙動をとった男がいた。脹相だ。脹相は、何も言わず沙都のスカートに手をかけて。そのまま剥ぎ取ろうとして、


「こら!」


 タオルを持った九十九さんにぽか、とグーを落とされた。脹相は不服そうな顔をして、火傷していると抗議する。九十九は映画のキャラクターみたいに、ぱっと両手を開きおどけて見せた。


「服の上からの場合。無理に脱ぐと、痛みが強くなったりするのさ」


 どこからか現れた盥に脚を置き、どこからか現れたピッチャーで、服の上から流水で冷やされる。沙都はみんなごめんなさい、と頭を下げつつ、


「脹相、平気だから」


 と、にっこり笑いかけた。

 そこからだ。数時間、脹相は何を言っても上の空で、すす…と離れるようになってしまった。
 天元と九十九と沙都は、顔を見合わせて、どうしちゃったのか。まああの子、生まれたてだから。恥ずかしいんじゃない? 護衛なのに困るな。と、その身を案じるのであった。


「ねえ脹相」
「……」

 暫くして、話しかけたのは沙都だった。遠くから九十九がはやく機嫌なおせと野次を飛ばす。脹相は、沙都をちら、と見下ろしてから、じいっと脚を睨んで。どうした、と低い声で返す。


「あの。怒ってる?」
「怒ってはいない」


 地を這うような低さの声に、どうしたものかと沙都は苦笑いする。


「じゃあ。どうしたの。ここに来て一番暗い顔してるよ。心配なの」
「……俺の心配をしているのか」
「そう。心配です」


 こうなったら直球勝負だと沙都が仕掛けると、脹相は、少し黙ってから、心配……と繰り返して。


「声を出すな」
「え。きゃっ、」


 沙都のスカートをめくるのだった。

 真っ白けな脚に、微かに差す赤み。脹相は、ここか、と淡々と呟く。
 沙都と言えば、羞恥で顔を真っ赤にするばかりだった。たった数秒だが、沙都にとっては永い永い時間だった。宛ら、無量空処お試し版、といったところだ。
 九十九も天元も、遠くに居るからか、全く気付いていない様子なのが、尚更恥ずかしく。これが五条先生や狗巻先輩なら馬鹿! と一蹴できたものの、脹相なのだ。特級呪物・呪胎九相図、とんでもない力を持った呪いなのだ。
 一体全体どうしてこんなことに、と固まっていると、火傷痕にするりと手が伸びてきたので。いよいよ大きい声が出る。


「あああの、あの。さわるのはだめですっ」
「あ?」
「ひ、いや。も、おろしますっ」


 すす、とスカートをもとに戻して、沙都は息を荒げた。
 脹相は沙都を見て、「平気そうだな」と言った。


「へ、へいき」
「火傷が」
「やけど」
「俺のせいで、酷くなっていたら、嫌だった」


 そんな理由で、こんな、挙動不審になられても!
 沙都が無言で冷や汗たらたらな事にも気付かず、「大したことじゃないか」とポーカーフェイスの脹相は立ち去ろうとするから、沙都は慌てて「あの」と呼び止めるのだった。


「なんだ」
「心配は、ありがとう。でもね、あのね、…人間は、男と女があってね」
「知っているが」
「で、私は女なのね」
「見ればわかる」
「女のスカートを、めくるのは、良くない、かなって……」
「………」


 しどろもどろの沙都に、脹相は固まって。
 それから、
 一寸遅れて「お兄ちゃんのした事だと思えばいい」と立ち去るのだった。
 お兄ちゃん。お兄ちゃん?
 兄のしたことと想定してみて、沙都はいやいや、と頬を赤らめた。お兄ちゃんは、こんなずるい、男の逃げ方はしないもん。




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