※同棲

 二人で暮らすようになっていいことはドライヤーの手間がなくなったことだと脹相は言う。つづけて、そもそもドライヤーすらしていなかった、自然乾燥だった、と話した。丁寧に髪に弱風をあてられながら、沙都は頭にはてなを浮かべる。風呂上がりは、互いの髪の毛を乾かしあうのが日常になっている。今までしていなかったのだから、手間がふえたのではないか。沙都が訊くと、
「沙都の髪を乾かすのは手間じゃない」などと言う。こそばゆい気持ちになる。
 いつでも、沙都の髪を乾かすのが先だった。首にタオルをかけたまま、ほそくてやわらかい髪に指をとおす。乾かしきると、交代する。今日は先に乾かしてあげる、となんど言っても、風邪をひくだろうと自分のことを後回しにするのだった。
 脹相が髪をおろしているのは珍しい。さいしょは見慣れない姿にきゃあと黄色い声をあげていた。長くても、指通りはやはり女の髪とは違う。少しかたい黒髪。
 脹相と違って、沙都の乾かし方は雑だった。強い風をあてながら、わしゃわしゃと髪をかく。だいたい乾いたら、冷たい風にして、もう一度わしゃわしゃして、おしまい。痛くないですかと聞けばきもちいいと答えるから、それでよかった。

 髪の毛を乾かしたら、部屋を暗くして、ベッドに潜りこむ。体を重ねるのは、次の日が沙都の休日のときと決まっていた。明日は仕事なので、一緒に眠るだけだ。 
「寒いから寄ってくれ」と言われて、隙間がなくなるように身をよせる。部屋では二人して洋服を着るようになった。首もとが大きくあいた服なので、きっと寒いだろうなと思う。違う服を準備しなくちゃ、と思いながら頬ずりをした。肩に両腕を回されて、抱きしめられる。足を絡められて、ひんやりとした足裏にじんわり熱が移る。
「まだ寒い」どうやら今日は冷えるらしい。顔をあげると、なんだかしゅんとしている。大きい犬みたいだなあと思う。


「暖房いれようか」
「いらない。あたためてくれ」
「時間かかりそう」
「かまわない」


 足を縮められて、彼も足裏が冷えていることに気づいた。冷たさにびく、と震えをはしらせてから、あたたかくなるようにぴったりと肌と肌を合わせたままにしておく。胸に耳をあてると、心臓の音がきこえてくる。


「首は冷やすと寒いんだよ。首も、手首も、足首も。あたたかい洋服準備しないと」
「いつもの服がある。寝るときは沙都がいる」
「寝るときくらいあたたかいのがいいよ。虎杖くん何か良い服もってないかな。体格そんなに変わらないよね?」
「いいから」
「わ」


 抱きしめられてた体を持ち上げられる。そのまま、ごろんと脹相の上に寝転ぶことになった。そのまま、抱き枕にされる。重いからだめだよ、と身じろぎすると、さらに抱く力を強くされる。やだやだ寝苦しいと胸を小さく叩くと、こんどはその手を繋がれてしまう。指を一本いっぽん、見せつけるように絡められて、なんだか恥ずかしいのと、この人のことがとっても好きだなと改めて自覚するのだった。
 それにしても、彼の上に寝転ぶのは落ち着かなくて(トトロのメイちゃんになってしまう)「上は落ちつかない」と訴える。脹相は少し考えて、喉の奥で笑うと、
「ああ、オマエは、そうだろうな」とまた身をひっくりかえす。きちんと整えた毛布が崩れていく。なんだかたくさん今日は動くのね、と、沙都もくすくす笑った。すると、いつの間にか、じいっと黒い双眸に見下ろされていることに気づく。黒く、少し緑がかって見えることのある瞳に、どきりとする。口は閉じて、繋がれた手は開いてみる。手がほどかれることはなかった。


「乗るより、のしかかられる方が落ち着くんだろう」
「そ、そんなことない」
「ひどくすると喜ぶくせがある」
「わー!」


 体重を思いきりかけられる。潰されちゃう、と慌てるが、結局重すぎるくらいの重さがちょうどよいのだった。ほう、と黙っていると、「なんとか言え」とまた目があう。ちょうどいいです、と言うのも憚られて、悩んでから。そっと、口を寄せた。


「ふふ」
「……重いか」
「重いよ。重いってば」


 あとね、ちょっと夜ふかししたくなってきた。これを言うのもなんだかちょっと、と、何度か口をあわせる。気づいてほしくてキスをする。明日が仕事でもいい。やさしい決まりがいらない夜だってあるでしょう。気づいてよ。
 しばらくすると、また笑い声がふってくる。期待に口を小さくあけた。




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