じゅうよん
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「工くんこれ」

「?」

風呂上りの柔軟をやっていた時のことである、手渡されたのは可愛らしい封筒で、中に便箋が入っていることが伺える。

「なにこれ?」

「同じクラスの女の子がね、工くんに渡してって」

その言葉で胸がスッと冷めた。つまり姉ちゃんはラブレターの経由をさせられたということだろう。

「工くん中学のころもよくモテてたけど、同学年だけじゃなくて上の学年も射止めるなんてやるじゃん」

姉ちゃんは嬉しそうに笑う。その笑顔がなんだか腹立たしかった。俺の気持ちも知らないで。

「いらない」

好きな女の子からラブレターの経由させられるなんてまっぴらごめんだ。俺は柔軟を再開した。姉ちゃんは俺の隣にちょこんと座った。

「そんなこと言わずに、その子可愛くていい子で有名だよ。」

「……。」

「ね?」と姉ちゃんは首を傾げる。俺からしたら姉ちゃん以外の女の人は大根やひじきと大差ない。つまり眼中にないのだ。どんなに可愛かろうが、いい子だろうが、姉ちゃん以上の人はいないと思っている。

「てかさ、姉ちゃんは俺に彼女できていいの?」

「え?」

バカ、何聞いてんだよ。そんなの即答されるに決まってる。自分から傷つきに行くなんて俺も馬鹿だなとため息をつきそうになるも、姉ちゃんは意外にも考え込んでいた。

「工くんに彼女……、彼女かあ……」

ぼんやり上を向いていたと思ったらハッとしたように俺を見た。

「工くんに彼女できたらもう姉ちゃんと遊んでくれなくなる?」

「……。」

何を言ってるんだと苦笑したくなった。俺は姉ちゃんを彼女にしたいのに、姉ちゃん以外の女の人とは遊びに行くのも億劫だ。しかし俺はそのことを姉ちゃんには伝えなかった。

「さあ、どうだろうな」

わざとそう言ってはぐらかしてやれば姉ちゃんは面白いくらいに慌てた。

「工くん彼女できても私のこと蔑ろにしないでね。」

そんなことを不安そうに言うものだから愛おしくなって姉ちゃんを抱きしめたくなった。でもそんなことはできないから、俺は姉ちゃんの頭に手を置いた。

「当分彼女いらないや」

「そっか」

姉ちゃんは目に見えてホッした。どうやら俺を誰かに盗られるのは嫌らしい。それに嬉しくなる。

「だからその手紙は……あー、いいや、自分で断る」

姉ちゃんのクラスの人ということは、姉ちゃんは嫌でも顔を合わせなければならないということだろう。そんな人にラブレターを突き返して姉ちゃんがその人と気まずくなるのも嫌だし、と手紙を受け取る。姉ちゃんは少し不安そうな顔をした。

「?。どうしたの」

「工くんがその子のこと一目惚れしないか心配……。」

なんとも嬉しいことを言ってくれる。俺はにやける頬をなんとか押さえ込んだ。


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