じゅうさん
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「あれ、五色じゃん」

「あっ、白布くん、川西くん。こんばんは」

部活帰りに近くのコンビニに寄るとそこにはシュークリーム片手に姉ちゃんがいた。姉ちゃんはぞろぞろと入ってくるバレー部員に会釈した。

「工くん、お疲れ様。」

「うん」

姉ちゃんは俺に微笑みかける。その笑顔が可愛くて、ほかのヤツが惚れるんじゃないかとヒヤヒヤした。

「なにか奢るよ。何がいい?」

「え!?別にい………」

「はいはい、俺クリームパンがいい」

川西さんが俺を押しのけて手を上げる。白布さんも「俺はこれで」と菓子パンをひとつ姉ちゃんに渡した。

「おっけー。工くんは何がいい?」

「………。」

何だか胸がモヤモヤする。2人はさも当たり前のように姉ちゃんにパンを渡した。姉ちゃんもそれを普通のように享受している。気に食わないが先輩相手なので睨むこともできない。すると川西さんが俺の肩を組んだ。

「安心しろ、金に余裕があるときは俺らが奢ってる」

「持ちつ持たれつってやつだな」

「そうだよ工くん。高っかいパフェとか奢って貰ってるから工くんが気にしなくていいよ」

「……………。」

俺が知らない間に一緒にパフェとか食いに行ってるのかよ。俺とは行かないくせに。それも気に食わない。我慢できずにぶすくれていると川西さんは組んでいた肩を外した。

「どうしようもねーなこのシスコン」

「??」

白布さんがため息をつく。姉ちゃんは俺がなぜ不機嫌なのか分かっていないらしく困惑している。

「お前膨れてないで一緒にパフェ食べたいならそう言えばいいじゃねーか」

「は、はあ!?俺は別にそんなんじゃ……」

「工くんパフェ食べたいの?」

「い、いや別に…!」

「そこの喫茶店に新作のパフェできたの!今度皆で食べに行こう?」

姉ちゃんは目を輝かせて言う。皆ってのが気に食わないけど、でも姉ちゃんが嬉しいならいいかな。なんて完全に惚れた弱みだ。

「俺パス。」

「俺もパス。2人で行ってくれば?」

「え?」

「!?」

川西さんと白布さんが姉ちゃんをレジまで誘導する。

「今金ねーんだよ。パフェ奢れねえ」

「まって、工くんのがまだ……」

「工いらないって言ってたじゃん。」

あれよあれよと商品がレジに通されていく。2人のパンの代金を払って3人は戻ってきた。

「工くん本当にいらないの?」

「いらない」

好きな子に奢ってもらうとか嫌だ。姉ちゃんは少し不服そうだった。

「そっか、まあいいけど、2人も一緒に行こうよパフェ食べに。奢るからさ」

「毎度毎度奢ってもらうの悪いじゃん。2人で行ってこいよ」

「んー、」

姉ちゃんは不満そうに俯いて唸る。

「姉ちゃん俺と2人は嫌?」

「そんなわけないじゃない!」

姉ちゃんはばっと顔を上げた。その勢いに少したじろぐ。そして姉ちゃんはちょっと不安そうにした。

「ただ工くんが私と2人は嫌なんじゃないかなって……。」

「そんなわけないだろ!」

叩きつけるように言ってしまう。姉ちゃんは一瞬ポカンとして次には花が咲いたように笑った。

「そっか。じゃあ今度の休みに2人で行こう」

「約束」と姉ちゃんは嬉しそうに言った。俺も姉ちゃんとデート(?)の約束ができて嬉しかった。白布さんと川西さんはこの兄弟はどうしようもないと言ったふうにジト目で見ていた。

……

“今度”の約束は意外と早くやってきた。5月下旬。テストの1週間前に入って全部活動は休止になった。おやつ時を少し過ぎた時間、私と工くんは件の喫茶店に来ていた。適当な席に座ってメニューを開き注文する。私は例のパフェを、工くんはサンドイッチを頼んだ。

「パフェじゃなくていいの?」

「腹減ったから、」

そう言えば工くんはあまり甘いものは得意じゃなかったなと思い出す。パフェ食べたいと言っていたからパフェは例外だと思ってたけど、違うのかな?それとも本当にお腹空いてるだけなのかな?悩んでも答えはでなかった。

注文の品を待つ間世間話に花を咲かせる。工くんはバレー部のことをよく話してくれた。そうこうしている内にサンドイッチとパフェが来る。私はパフェを1口すくって食べる。

「!!。お、美味しい!これすっごく美味しいよ工くん!!」

「そっか」

工くんはどこか愛おしいものを見るように私を見つめる。その視線になぜかキュンとする。おいおい、弟にキュンとしてどうするんだよ、と自分をいさめる。

「工くんも食べる?」

「いらない。」

工くんはサンドイッチを1口食べた。そして幸せそうな顔をする。工くんは本当に美味しそうに食べるなあなんて、見てるこっちが幸せになる。私もまた1口パフェを食べる。

「姉ちゃん、クリームついてる」

「え、」

私はここかな?と検討をつけて唇を舐める。しかしどうやら違ったようで、工くんは苦笑する。

「ここ」

工くんは唇を指でなぞってクリームをとる。そしてその指をペロリと舐めた。

「あっ、」

「え?あっ、ごめん!」

頬に熱が集中する。工くんはそんな私の反応を見て謝った。工くんも少し頬が赤い。しかしどこか嬉しそうだった。

「姉ちゃん顔赤いよ?」

「っ、赤くありません!」

弟に頬を染めさせられたという事実を認めたくなくて、私は勢いよくパフェを食べた。



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