じゅういち
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9月、夏休み頃から声をかけられていた白鳥沢に正式に推薦が決定した。

「姉ちゃん!」

「?」

リビングのソファで本を読んでいた姉ちゃんが顔を上げる。

「白鳥沢から推薦もらった!」

「本当!?」

姉ちゃんは勢いよく立ち上がって本を放り投げて俺に抱きつこうとしたが、寸前でハッとして立ち止まる。

「おめでとう工くん!」

そう言って俺の手をとってピョンピョン跳ねる。その動作が可愛いと思うも、抱きついて欲しかったなんて邪な考えが浮かぶ。いや、抱きつかれたら抱きつかれたで困るのだが。

「ありがとう」

「うんうん!工くん頑張ってたもんね!でもすごいなあ!本当に白鳥沢から推薦貰っちゃうんだもん!」

姉ちゃんは興奮気味に今度は俺の手をブンブン振る。俺より喜んでくれてるのではないのだろうか?その事実に姉ちゃんを引き寄せて抱きしめたい衝動に駆られる。しかしこの歳でそんなことするのはもうおかしいのでぐっと我慢する。

「ねえ、何か欲しいものとかない?合格祝いに何か買おうか?」

「じゃあ......」

姉ちゃんを抱きしめたい、なんて言えないことを思いつく。俺はため息をついた。

「え、そんなに高いものが欲しいの......?確かに姉ちゃんあんまり貯金ないけど工くんが欲しいなら頑張るよ」

「ちっがうよ!」

お金じゃ買えないものが欲しいだなんて、俺も贅沢になったものだ。

......

結局姉ちゃんにはタオルを買ってもらった。ぶっちゃけ姉ちゃんになにか買ってもらうのは嫌だったけど、もらったらもらったで結構嬉しかった。姉ちゃんは「そんな安いのでいいの?」と不服そうだったけど、タオルならいつでも使えるし、俺としてはいいチョイスをしたと思っている。

春休み、練習に参加するように白鳥沢から言われていたので早朝に出かける。家族はみんな寝ている、と思っていたら姉ちゃんがパジャマのまま起きてきた。少し寝癖がついている。(そんなところも可愛い)

「工くん今日から練習だね、頑張って。いってらっしゃい」

「!。うん、行ってきます」

姉ちゃんは一つ眠そうにあくびをした。これを言うためだけに起きてきてくれたのかと思うと嬉しくなった。どんな練習でも乗り越えられそうだと思った。

......

練習が始まるとまず自己紹介をするように言われた。一人一人挨拶をしていく。俺の番になって適当に自己紹介をする。

「五色工です。中学ではWSやってました。」

そう言うと、背の少し低い(といっても170cmはあるが)茶髪の先輩と金髪の癖っ毛で半目の先輩が少し目を見開いて俺を見た。二人はお互いに顔を合わせて意外そうな顔をしている。なんだろう?俺なにか変なこと言ったか?そんなことを思っても確かめる術はなく、そのまま自己紹介が終わり、練習が始まった。

......

「なあ、お前姉ちゃんいる?」

そう休憩時間に話しかけてきたのは俺が自己紹介したときに目を見開いていた茶髪の先輩で名前は確か白布さん、隣には同じく目を見開いていた癖っ毛の先輩、確か川西さん、もいた。

「いますけど、」

そう言うと2人は“やっぱり”という顔をした。

「じゃあお前が“工くん”か」

「?」

「俺たち五色と......お前の姉ちゃんと同じクラスだったんだよ。」

「そうなんですか!?」

ということはこの2人は高校の姉ちゃんの様子をよく知っているということか。聞きたい。姉ちゃんは自分のことをあまり話さないのだ。聞いても許されるだろうか?

「五色、お前のことばっか話してたぞ」

「え」

「“白鳥沢に推薦でバレー部に入るからよろしくね”って1年の頭から言ってて無理だろうと思ってたら本当に入ってきてびっくりだわ。」

「ええっ」

姉ちゃんは俺の言葉を信じてくれてるとは思ってたけど、ここまでとは思わなかった。なんで推薦もらう前から話してるんだよと少し恥ずかしく

「にしても似てねえな」

「よく言われます」

「本当ビックリするくらいお前のことしか話さないぞ、五色のやつ。お陰でお前のこと詳しくなったわ」

「お前の姉ちゃんすっげーブラコンだよな。お前苦労してねえ?」

「俺だったら絶対嫌だわ、あんなブラコンの姉」

その言葉にムッとする。確かに姉ちゃんは俺のこと大好きだけど、でもそれを嫌だなんて思ったことは一度もない。

「苦労なんてしてません。」

つとめて平常心でそう言うも顔に出てたらしく、二人は苦笑した。

「お前......シスコンか」

「まあお前がいいならいいんじゃねえ?」

「あの、姉ちゃんは学校ではどんな感じなんですか?」

「そうだな......」

これをきっかけに二人と仲良くなった。二人は俺のことを姉ちゃんと区別するために名前で呼ぶようになった。姉ちゃんは大人っぽくて結構人気だと聞いて気が気じゃなかった。姉ちゃんの好みが年上で良かったかもなんて初めて思った。


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