● 焦がれた雨
奴隷だったアルタルフのお話。
* * *
鉄格子の向こう、遠く重い空の色。降り頻る雨音がやけに煩く感じた。雨の空を歩いた記憶はない。でも記憶の中の悪いことは大抵雨の日で。さあ、さあ、響く音は窓の外で踊る。
この外に出たら、何か変わるかな。物の身で贅沢で、我儘な願いだけど。だだっ広い部屋の隅で、じっと、そっと。この能力を込めて、雨の世界へ飛び出せたら。ざあ、ざあ、降り積もる音は止む気配がない。
ああ、駄目だ。僕は奴隷なのだから。誰かに買われて、飼われて、一生を終える運命なのに。そんな贅沢、望んだって悲しいだけだ。気付けば雨は土砂降りで。この外へ、雨の向こう側へ、行ってみたいと思いは募るばかり。
身体を埋め尽くす奴隷の刺青、動きを縛る足枷。僕はただの奴隷ひとり。誰かが気紛れで救ってくれるのを、気が遠くなるくらいに、待ってるだけなんだ。
「………………あの向こう、何、あるんだろう。」
答えはきっと、誰も知らない。雨は止まない。でもきっと、近いうちに晴れるだろう。待ち望んだ太陽を、少しだけ綻んだ心で。僕を見付けてくれる太陽を、ずっと、ずっと、待っている。
2015/02/28 12:51