優しい木漏れ日、またいつか
▼花吹雪
春である。麗らかな日差しは日に日に増して、桜の花たちは少しずつ新緑に居場所を提供し始めた。そんな折、一件の依頼が舞い込んだ。
「花を模ったブローチかー。」
スケッチブックと鉛筆を片手に依頼者の言葉を思い出す。大切な娘が結婚する、娘は花が好き、そんな娘の為に飛び切り素敵なブローチが欲しい。前金として代金を支払ってもらった以上雑な仕事は出来ないと店を飛び出して現在である。
「餅は餅屋、花は花屋だよね。ってことでリアー、いるー?」
軒先から声を掛けると、長身の男性が店の奥から現れる。彼は水奈吉を見ると穏やかそうな表情を柔らかく細めた。
「みなきちさん、いらっしゃい。買い物?」 「ううん、スケッチさせてほしいんだけどいい?」 「スケッチ?」
首を傾げるユリアに事の経緯を説明した。ついでと言わんばかりに練り上げた構想を書き綴ったスケッチブックを見せて、様々な説明を続ける。
「花弁の部分なんだけどさ、流石に薄すぎると耐久性に欠けるしかと言って分厚いと不格好じゃん?だから生花を模写してバランスを整えたいんだよね。」 「ここの部分は?」 「これは花によるけど大粒のサファイアでアクセントつけようかなって。」 「……うーん、現実だと青い花って種類が限られてくるんだよな。みなきちさんは何の花をイメージしてたの?」
ジュエリーには無縁であろうユリアも、花の話となれば別である。店から数本の花を持ち寄り、水奈吉があらかじめ用意していたデザインと照らし合わせ、デッサンの隣に並べた。同時にユリアから教わったのは花にまつわる言葉。カンパニュラならば感謝や誠実、カーネーションなら清らかな愛などだ。 益々どの花を選べばいいのかと頭を抱えた水奈吉にユリアは控えめに微笑んだ。噂では酒ばかり飲んで真面目に仕事などしない、などと悪評ばかりだったがそんなことはなかったから。そんな時だった。
「あ……」
ユリアの声が漏れる。顔を上げた水奈吉の目に映ったのは、溢れんばかりの花吹雪。山桜が風に乗り、季節外れの天の川を眺めているような感覚に陥った。
「みなきちさん、山桜。」 「え?」 「山桜の花言葉は、あなたに微笑む。」 「!」
弾かれたようにスケッチブックを閉じ、水奈吉はユリアに謝礼を述べて自分の店へと走った。モチーフは、桜。銀と散りばめた宝石。そんな無機質な温かさを脳裏に浮かべ、店の看板に【本日臨時休業】の文字を張り付けて制作に取り掛かるのだった。
* * * 花言葉は私が好き(な上、花言葉辞典も持ってるし調べるのも大好き)だからまた何か書きたいです。 (レンタル:花梨さん宅ユリアさん) (水奈吉/シャワーズ♂)
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