優しい木漏れ日、またいつか | ナノ



優しい木漏れ日、またいつか






 ▼冷えた春のお買い物

春を迎え入れる準備も疎らに進み、残った冷気を捨てよと言わんばかりの寒波が吹き付ける。木々には桜の蕾が少しずつだが芽吹き始め、もうすぐ辺り一面が花見日和となることだろう。
強風を浴びて身震いし、水奈吉は足早に目的地へ向かっていた。本来ならばこの寒さで出歩きたくはないのだが、商売道具が故障してしまってはお話にならない。吐き出した息はもう白に染まらず、鼻先をゆるゆると温めた。

「ちわーっす。」

扉を開けて中に入る。途端身体を包み込む暖気。適温に暖められた室内の空気に思わず頬が弛む。
振り向いたのは電器店【CABLE】の店主、アニマートだ。

「ミナっさん、珍しいですね!」
「電動やすりが煙吹いちゃってさー、修理出来る?」

肩に提げた鞄から取り出した器具はぶすくれたようにうんともすんとも言わず、少し焦げ臭い臭いを発していた。アニマートは水奈吉の手元にあるやすりを様々な角度から見ながら顎に手を添えて少し首を傾げる。

「結構特殊な部品が混ざってるんで、取り寄せに時間かかっちゃいますけど大丈夫ですか?」
「直せるの?」
「お任せください!」

胸を張るアニマートに水奈吉は安堵の表情を浮かべた。

「これさ、店始めた時に兄ちゃんと妹からプレゼントされたやつなんだよね。」
「あれ、ミナっさんご兄弟いたんですか?」
「うん。ってもぼくが一番ちびっこいんだけどね。」

けらけらと笑うと、電動やすりをアニマートへ手渡して店内を物色する。修理出来ようが出来まいが、一時的に商売道具が使えないのだから別の品で代用しないといけないからだ。
いつもならば軽く見て終わってしまうが、改めてじっくりと店内を歩くと面白い商品がいくつも並んでいた。最新式のドライヤーに自動泡立て器、恐らくアニマートが改造したであろう調理器具も置いてある。

「アニー、旧型でいいから電動やすり置いてないの?」
「電動やすりならそっちの家電じゃなくて、業務用の方ですよー。」

業者へ連絡をしようとしていたのか、アニマートは帳面を片手に別の棚を指さす。そちらに移動すると、電動鋸やチェーンソーなどいかにも業者向けの電器品が陳列されていた。
その中からいつも使っているようなやすりを探し出し、手に取り重さなどを確認する。矢張り手に馴染むものでないと最高の品は作れない。何個か試してチェックをしながら、気に入ったものを取り上げた。修理が終わったら交互に使うことにするのだ。
会計をしようとレジへ向かう途中、自分の店には置いていない電動糸鋸を見つけた。銀板を切り出すのに便利そうだ。

「…………アニー、これって買い手いる?」
「まだいませんよ!お買い得です、お買い得!」

電話を終えて部品の買付が済んだアニマートの表情は満面の笑みである。これは売れるのでは、と思ったのだろう。水奈吉は渋るように顔を顰め、左手でこめかみをこつこつと叩き、電動糸鋸とアニマートを交互に見た。

「……次の決算で黒字だったら買う。」
「まいどありー!」

嬉しそうにアニマートがお礼を言い、カウンターへ飛んで行ったと思えば戻ってきて「予約済み」の張り紙を張り付けた。まだ確実に買うとは言っていないが、これは恐らく買ってしまうのだろう。苦笑いを浮かべ、水奈吉はアニマートに頼んで新しい電動やすりを購入するのだった。


* * *
結局電動糸鋸は買いました。
(レンタル:千柚さん宅アニマートさん)
(水奈吉/シャワーズ♂)









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