優しい木漏れ日、またいつか
▼恋人とアイスクリーム
商店街にアベックが増えるこの時期、肌を刺す風が寒いのに蒸し暑く思えてしまうのは恐らくいちゃいちゃとした雰囲気故だろう。水奈吉はショーウィンドから発される冷気を浴びようと頬を硝子に押し付け、大きな溜息を吐く。
「くっそーリア充どもめ〜!」 「店の前で負のオーラばら撒かないで下さいよ、折角の稼ぎ時なのにお客さんが逃げちゃうじゃないですか。」
ジェラートがやれやれと言った様子で新作のアイスクリームを作る。水奈吉はその様子を見て何か新しい作品が浮かばないかと思ったのだが、店にやってくるアベックに最早それどころではなくなってしまっていた。寒空の下、ホワイトデーデートと銘打って一つのアイスを分け合う。大変微笑ましいのだが、祝福してやりたいのだが、矢張り、暑苦しい。
「……いや、ジェラのアイス当たればめっちゃ美味しいもんね。」 「だから全部自信作ですって。ハズレなんてありません。」
彼はきっぱりと言い切るものの、水奈吉は眉間に皺を寄せた。以前チャレンジ精神だけで頼んだ煮物味のアイスクリームは悲惨だった。いや、上手にアイスクリームに落とし込めて入るものの、根本が違い過ぎた。なぜ作ってしまったんだと喚き散らしたのは記憶に新しい。 そうこうしている内にまたもアベックがやってくる。水奈吉が慌ててショーウィンドから離れ、その様子を眺めた。バレンタイン・ホワイトデー限定のアイスクリームと書いてあるそれを頼む後ろ姿は幸せに満ち溢れている。
「ありがとうございました、またお越しください。」
恭しく頭を下げるジェラートの姿を見ていると、何かやらなければという気持ちが芽生えてくる。店に戻ったらホワイトデーの為のジュエリーを拵えようとこっそり考えながら、水奈吉は元気よくチョコレート味のアイスクリームを注文するのだった。
* * * リア充はアイスクリームがお好き(?) (レンタル:雪音さん宅ジェラートさん) (水奈吉/シャワーズ♂)
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