心を捕らえて離さないもの


子供のように素直に喜んでくれる紫苑が好きだった。
邪心を持たない彼と一緒にいることで、自分も綺麗になれる気がした。

おれは、あんたが思っているよりずっと、あんたに感謝しているんだ。

生まれてきてくれて、ありがとう。





紫苑がデザートを食べ終わるのを見計らって、おれは鞄に忍ばせていたものを取り出す。

「ネズミ?何してるの?」
「うん?プレゼントさ」
「…えっ」
「あんた、これで終わりだと思ってた?冗談、こんなんじゃいつものデートと変わんないだろ。今日は特別な日なんだから」
「いや、ネズミ、でもぼく、きみの誕生日…祝ってないし…」

紫苑はおろおろし、必死に遠慮しようとしている。
ふっ、と自然に笑みがこぼれる。

ああ、まただと思う。紫苑といると、いつも笑っている気がする。
こんなふうに笑えるのは、紫苑、あんたといる時だけだ。

「紫苑。これは、おれの感謝の気持ち。おれが、あんたに贈りたいんだ。だから、受け取って?」
「ネズミ…」
「早く、開けてみてよ」

紫苑の目を覗き込んで優しく囁けば、こくりと頷いてプレゼントのリボンをほどいてくれる。

「これ…」

出てきたのは、銀細工のネックレス。

「それ、おれが作ったんだ」
「うそっ」
「本当さ」
「えっ、どうやって?」
「どうやって、って…コンロの火で溶かして作る。だって、買ったんじゃおもしろくないだろ?実は、お揃いでおれのもあるんだ。ほら」
「ネズミ…もうぼく、なんて言ったらいいか…」

ぽろりと、紫苑の大きな瞳から涙がこぼれる。

「え、おいおい紫苑、泣くなよ」
「嬉しくて、つい…。ネズミ、ありがとう、大好き…」
「おれこそ。生まれてきてくれてありがとう。あんたに出会えて、本当に良かったよ」

そう言って紫苑の髪に手を伸ばす。
艶やかな白髪を撫でていると、あっと紫苑が声をあげる。

「ん?どうした紫苑」
「これ…何か彫ってあるね。文字だ…フランス語?なんて意味なの?」
「あれ、あんた秀才じゃなかったっけ。こんくらい、分かるだろ」
「まだドイツ語しか取ってないんだ。フランス語は来年取るつもりで…」
「あ、そうなんだ。じゃっ、特別に教えてやる。'Regardes le ciel.'…空を見上げてごらんって意味だ」
「へぇ!詩的だね!あ、じゃあ、ネズミのは?何て書いたの?見せて見せて」
「これは、だめ。秘密」
「ええー」

ふふっ、と笑い、手の中にある自分のペアネックレスに視線を落とす。


Notre avenir deux.
(君と一緒に歩む未来)


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