輝けるこの時を胸に刻んで
今日でぼくは、20歳になった。 友人たちからたくさんお祝いの言葉やプレゼントを貰った。 母さんはぼくの大好きなチェリーケーキを、朝から焼いてくれた。
ああ、幸せだ。誕生日って、何歳になっても、楽しい。
輝けるこの時を胸に刻んで
大学の授業も午後の講義がたまたま休講になったおかげで半日で終わり、ぼくは軽い気持ちで帰路についていた。
軽い、気持ち…?
自分の独白に疑問を覚える。 あれ、何だろう?この引っ掛かり。
ちょっと立ち止まり、手持ち無沙汰に携帯を開いてみる。 メールの受診ボックスを見て、やっと気づく。
…ネズミ。
そうか、ぼくは寂しいんだ。 ネズミは、覚えてるかな。 今日はぼくの誕生日であるとともに、きみと出会った日でもあるんだよ。 ちょうど、1年前。 鮮やかにぼくを助けてくれたきみは、誰より美しくて魅力的だった。 容姿もさることながら、その透き通るような不思議な声はとても…
「紫苑」
はっと足が止まる。 ネズミのことを考えていたら、ネズミの声が聞こえた。
え?空耳?
「紫苑ってば。聞こえないの?」
今度は、クスクスと軽やかな笑い声が聞こえる。
ぼくは我慢できずに振り返る。
「ハッピーバースデー、紫苑」
そこには、本当にネズミが立っていた。
「ネ、ネズミ…。本物?」 「は?」 「え…いや、ネズミ会いたさにぼくの脳が描き出した幻影かと…」
はははは、とネズミは笑う。
「あんた、極めつけの天然だな。そんなにおれに会いたかったんだ?」 「え…あの…」 「ふふ、今日はお祝いさせてくれるよな」 「えっ」 「紫苑、ついてきて」
戸惑うぼくの手をひいて、ネズミは颯爽と歩き出した。
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