さて、閉幕のお時間です


カツ、カツ、カツとチョークが黒板に当たる音が教室に響く。
今は午後一番の授業、すなわち睡魔が猛威をふるう時間帯だ。
不真面目な生徒の大半がお昼寝をしているおかげで、教室はとても静かだった。

「紫苑せんせ」

黙々と試験答案の板書をしていた紫苑は、突然上がった声に驚きながらも振り向く。

「…なんだい、ネズミ君」

あのネズミが睡魔に負けずに起きていたのか、というのが正直な感想だった。

「せんせ、そこ、カッコ3番の問題抜けてるよ」
「え?…あ、ほんとだ、ありがと」
「ふふっ」

ネズミは得意気に微笑むと、ふわりと優雅にあくびをして、机に頬杖をついた。


て、幕のお時間で
(アンコールはなしだよ)


授業終了のチャイムが鳴る。
生徒たちはそれを目覚まし代わりにして起き上がり、教室にはがやがやとした喧騒が戻ってくる。

紫苑が教卓でがさがさと回収したプリントやら資料やらをまとめていると、目の前に何枚かプリントを差し出された。

「これ、出し忘れた人達の。預かってきた」

顔を上げると、そこにいたのはネズミ。

「ネズミ」
「うん?」
「最近、どうしたの?」
「は?」
「えっと、いや…。やけに良い子だなと思って」
「お望みとあらば、いくらでも優等生にくらい、なれるぜ」
「あ、そう」
「なに。その反応」
「いや別に。授業中も痛いくらいの視線を感じるんだけど、それが優等生なのか」
「なにか問題でも?」
「…気が散る」

ぼそりと呟いた紫苑に、ネズミはぷっと吹き出す。
そのままからからと声を上げて笑い出す。

「なんだよ、そんなに笑うなよネズミ」
「あはははっ、いや、だって。だからミスしたわけ」
「…きみのせいだ」
「でもちゃんと指摘してあげたじゃん、結果オーライ、オーライ」

紫苑は無言で、ばさりとプリントを抱え上げる。

「あ、半分持つよ、職員室まで?」
「…うん」

何故か上機嫌なネズミは、紫苑の隣を軽い足取りで廊下を歩いた。


ねぇ、紫苑、気づいてた?

うん?

紫苑、おれのこと、名前で呼んでくれるようになってる

…だめだよネズミ、ぼくは良くてもきみは

え?

せめて学校では、先生って呼んでね

ふふっ、それ以外はいいんだ?

…まあね



fin.


あとがき

ここまでお付きあいくださり、ありがとうございました!
このお話で一応、君の世界は完結です。
でもこの二人のシリーズはこれからも番外編(←実質的には続編)という形で続いていきますので^^
これからもよろしくお願いいたしますm(__)m



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