種明かしはリボン結びを解くように


「はい、アイスコーヒー」
「ん、ありがと」
「ミルクと砂糖は?」
「どっちもいらない」
「あ、それからネズミ、これ、替えのシャツね」
「…なにこれ、赤チェック柄?趣味悪くない?少なくともあんたに似合うとは思えないけど」
「ボタン飛んで破けてるシャツよりマシさ」
「あれー、犯人はだれだっけ」
「…ごめんなさい、ぼくです」


明かしはリボン結びを解くよう


ネズミは紫苑に渡されたシャツを文句を言いながら羽織り、ベッドに座った。
紫苑は床にあぐらをかいて座る。

しばしの沈黙が訪れる。
アイスコーヒーに浮いた氷が、涼やかな音をたてた。

「ねぇ紫苑」
ぽつりと、ネズミが問う。

「おれのこと、好き?」
「え?ネズ…ミ。あ、うん。好きだ、好きだよ。初めて会った時から」
「…嘘くさい言葉」

カラン、と氷の音をさせてネズミがコーヒーを飲む。

「そんなことないよ。君は綺麗で一際目立っていたし、初めから惹かれていたよ?」

にっこりと、紫苑は笑う。
ネズミはグラスを傾け空にすると、ひらりとベッドを飛び下りる。
紫苑の目の前に来て、その笑顔をじっと見つめる。

「え?なに、ネズミ。ぼくの顔に何かついてる?」
「…この顔なんだよなー」

ネズミはぼそりと呟くと、おもむろに紫苑の両頬をぐいと引っ張った。

「ひへへへへ、ひょ、ははへ」
「離せって?ふふふ、だめー」
「はんへ?」
「だって、また仮面被っちゃったんだもん、紫苑せんせ。素の面見せろよ」

ぱっと手を離す。紫苑は涙目になって頬を押さえる。

「いきなり何するんだよネズミ!痛いじゃないか」
「おれはもっと痛かったよ、心が」
「え?」

「紫苑って誰に対しても笑顔だろ、クラス全員に対して平等に。でもそれって、誰も見てないんだよ。ひとりひとり、誰も見えてない。おれは、おれを見てほしかった。紫苑の目にとまりたかった」

「ネズミ、それこそ誤解だよ、ぼくはちゃんとネズミを見てた」

「じゃあ、覚えてるか?おれ、入学した時、どんな子だった?」

「えっと、髪短くて…っていうか普通の長さで、ピアスあけてなくて、シャツのボタンはきっちり上までとめてて、ネクタイもちゃんと絞めてて、品行方正な綺麗な子」

「…覚えてたんだ。そ、おれ、ひんこーほーせーだったわけよ」
「うん、成績もよかったよね」
「あれ、知ってたのか」
「生物だって、わざと赤点取ってたんだろ」

さらりと、紫苑は言ってのけた。
ネズミは、一瞬言葉を見失い、ふっと息をつく。

「そこまで見通してて、ずっと気づかないふりしてたわけ?悪趣味。大人ってほんとずるい」
「きみだって」

紫苑はすっと身を乗りだし、ネズミの頬に手を添える。
その滑らかな肌を撫で、艶やかな黒髪をまさぐる。
ネズミは驚いて僅かに身をひいたが、おとなしくされるままになっている。

「…紫苑?」
「ぼくが、ずっと我慢してたのに気づかなかった?」
「は?なんで、我慢する必要がある」
「きみの、数多ある遊び相手にはなりたくなかったから」
「ふぅん」

ネズミはそっと紫苑の手を外す。
こつん、と紫苑の額に自分の額を合わせ、紫苑の瞳を見据える。
至近距離で灰色の眼に射抜かれ、紫苑はどぎまぎする。
ネズミは少し掠れた声音で囁く。

「おれの行動、紫苑には遊びにしか見えなかったんだ?」
「…いや」
「そう。じゃ、問題なんてどこにもありはしないよな」

ふふふ、とネズミは穏やかに笑う。

「好きだ、紫苑」

紫苑は答えるかわりに、ネズミに思いやりにあふれた優しいキスをした。

空は白み始め、朝日が窓から射し込んでいた。


あ、やばい、もう朝だ、今日って平日だよね?

ああ。でも、おれは休む。今日は紫苑の授業ないし。紫苑も休めば?

そうしたいのはやまやまだけど、職員会議がある日だから行かなきゃ。

あっそ。じゃ、いってらっしゃい。

え、ネズミ、ふくれないでよ、ごめん、でもこれは不可抗力で…

うるさい、言い訳はいい。

ネズミ……

はははっ、冗談だよ、いいから早く用意すれば?




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