ただ、そこに在るだけでいいから


!)「まほろ駅前多田便利軒」のパロ
・多田→紫苑、行天→ネズミ
・紫苑さんは便利屋さん
・ネズミはほとんど無一文で転がり込んできた居候
・ネズミがだめな子
・面倒見の良い紫苑さん
・二人暮らしな、紫ネズ(…?)



だんだん肌寒くなってきた。
ぐっと冷え込んだ日の夕方、ネズミはふらりと散歩に出掛けたまま帰ってこない。

「…また風邪ひかれたら、こまる」

紫苑はそう自分に言い訳し、街へネズミを探しに行くことにした。





日はすでに落ち、辺りは真っ暗だった。ぶるりと身震いし、首元のマフラーを顔まで引き上げる。

「あれっ」

前方で声がした。僅かに揶揄の響きを含んでいる。
顔を上げずとも、ネズミだと分かった。

「あんた、どこ行くの?」
「…散歩だよ。悪い?」
「へぇ、こんな時間に?冷えるよ」
「ネズミこそ、」

風邪ひくなよ、と言おうとしてネズミを見ると、予想外に防寒対策ばっちりの服装をしていた。
マフラー、コート、左右ちぐはぐな手袋にブーツ。
驚いたことに、毛糸の帽子まで被っている。一体どこで拾ったんだか。
マフラーなんてネズミは持っていたか?
怪訝に思ってよく見てみるとやっぱり、ネズミが首に巻いているのは紫苑の黒いジャージだった。
紫苑は大きなため息をついた。

「…ぼくのジャージをマフラーがわりに使うなって言ったでしょ」
「だって、寒いじゃん。風邪ひいたらあんただって困るだろ」
「…きみって人は」
「うん?便利屋は体力勝負だからな、健康第一だぜ?」

しれっとネズミはそんな事を言い、ふふんと得意げに笑った。
きみに言われなくても分かってるよ、だいたい居候のくせに、ろくに便利屋の手伝いもしないでよく言うよ。
ネズミに言いたい言葉はたくさんあったが、それらを全てため息に乗せて吐き出す。

「…で、その帽子は?」
「あ、これ?そのへんのお姉さんにもらった」
「は?」
「寒そうだね、って話しかけられてさ。凍えそうですって答えたら、くれた」
「その人ってもしかして…駅裏の…?」
「うん。でもお誘いは丁重にお断りしてきたよ」
「あ、そう。そりゃ惜しいことをしたね」
「それほどでも」

さして興味もなさそうに肩をすくめ、ネズミは足を踏み出す。
三歩ほど歩いたところで、はたと立ち止まる。

「どうしたの、ネズミ」
「あれ?あんた、どっか出掛けるんじゃなかったの?」
「…もう帰る」
「へぇ?」

美しい形の唇が弧を描き、ネズミはにやりと笑った。こちらに顔を向けた灰色の瞳に、うっかり射止められる。
くそっ、と紫苑は胸の中で毒づき、ふいと視線を逸らせた。

「…きみを迎えに来たんだよ」
「ふぅん、そっか」

勝った、とでもいうような表情を浮かべ、ネズミは笑った。
おもむろに紫苑の手を取り、自分のポケットの中に入れる。

「じゃっ、一緒に帰ろうか、紫苑」

道端で拾ったという手袋をはめたネズミの手はごわごわしていたが、そのポケットの中はちゃんと暖かかった。


end.


あれ?なんかネズ紫っぽい?紫ネズのつもりで書いたんだけどな…
パロの原作読んでない方にとっては何のことやら、って感じですね…すいません…
まほろ駅前はとってもおすすめですので、ぜひに!

タイトルは、さまよりお借りしました。


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