繋いだ小指が離れてゆくよ


!)注意
・9巻ネタバレあり
・ネズ紫



どうして、なぜ…。
それらの言葉が頭を離れない。

なぜ、きみは去っていく。
どうして、ぼくを置いていくんだ。





ネズミの傷がほぼ全快した昨日、旅に出ることを告げられた。
でも、その決意に納得できない。
頭でネズミの言葉を理解することはできても、心が納得しない。

「紫苑、何度も言っただろ。おれはずっと前から、そう決めていた」

なだめるように、ネズミの指が頬を撫ぜる。

きっとぼくは、だだをこねる子供のように見えているんだろう。
そんなこと、ぼくだって承知だ。

頬に触れるネズミの手を掴まえ、握りしめる。
彼の耳に届かないくらい小さく呟く。

「…きみの傷が、回復しなければって…、思っていた。そうしたら、ずっとこのまま、この家にきみがいてくれるって。ぼくは、最低だ」
「なに?聞こえない」

ネズミが耳を寄せる。
逆に、紫苑は顔を背けた。

「…ネズミ」
「うん?」
「ぼくがもし、女の子だったら…きみはぼくを選んでくれた?」
「は?紫苑、なにを言って…」
「馬鹿なことを言ってるって、自分でも分かってる。ありえない事を仮定してみたって何も変わらない。笑いたければ笑えよ。でも、考えたんだ。ぼくが女だったらきみはぼくを置いていかなかった?ずっとここにいてくれた?ぼくは真剣なんだ、答えてよ、ねぇネズミ」

感情が昂り、言葉がもつれる。
途中から何を言っているのか分からなくなっていた。

ネズミが腕を伸ばし、両手で紫苑の頬を包み込む。
背けていた顔をネズミの方へ向けさせられる。
ネズミは優しく、紫苑の頬の涙を掬いとって微笑んだ。

ああ、またぼくは泣いているのか。
いつのまに、泣いていたんだろう。

「紫苑。じゃあ、真面目に答えよう。でも答えは、変わらない」
「…ネズミ」
「あんたが女の子だったら、おれはもっと必死になって、あんたを遠ざけていたさ。おれの復讐にあんたを巻き込まないようにな。あんな危険な矯正施設なんかに連れていかなかった。もっと早いうちに、おれたちは別離していたはずだ」

紫苑の、涙に濡れた睫毛がゆっくりまばたく。
ネズミは暖かな囁き声で、謡うように続ける。

「そもそも、あんたが男か女かなんて、おれに関係あるはずがないだろう?おれが行かなければならない理由は、もっと根本的なものだ。納得した?」

その声音に促されて思わず頷きそうになるが、紫苑はゆっくり頭を振った。

「いやだ。きみを失いたくない」
「頑固なところはまるで変わらないな、紫苑。じゃあ、おれからも『もし』の話をしていいか?」
「…うん」
「いいか、怒るなよ。もし、もしもだ。あんたの愛するママがNo.6に殺されたら、どうする」
「え?」
「ママを殺されても、あんたはNo.6を憎まずにいられるか?平然と、この都市に住み続けられるか?」
「…もうここは、No.6じゃない。ここには、新しい都市が生まれる」

ネズミは微笑み、紫苑の白髪に指を絡める。

「そう。あんたが、創る。でもまだここは、瓦解したとはいえNo.6のままだ」
「それは、屁理屈だ」
「ふふっ、そうかもな」
「ネズミ、お願いだから…」
「おれは決めていたんだ、紫苑。いつか自由になれたら…、おれが、おれ自身の復讐思念からも解き放たれたら、その時は自由にさまよい歩きたいと。ずっと、ずっと昔から、No.6に囚われた日から思い続けてきた」

灰色の瞳が、まっすぐ紫苑を見つめる。
唐突に、紫苑は理解した。

なによりも自由なはずのネズミは、だれよりも不自由に生きてきた。
ならば、自由になった今、自分が束縛すべきではない。

「だから、紫苑」
「…うん、分かった」
「そんなに落ち込むなよ」
「それは無理だ。もうきみに会えないかもしれないと思うと…」
「…必ず戻ってくるさ、紫苑。生まれ変わった素敵な都市に」

だから、そんな顔をするな。
あんたには、笑顔が似合うんだから。

再会を、必ず。


「No.6 ネズ紫 もし、紫苑は女体化であり、紫苑の母はNo.6により殺せたらの話。」というリクエストでした!
まず謝ります、ごめんなさい!!
やっぱり未熟な私には、女体化はハードル高過ぎて…素敵なリクエストを活かすことができませんでした…本当に本当にごめんなさい!!orz(土下座)
こんな駄文で申し訳ありませんが、これからも迷路をよろしくお願いいたしますm(__)m

タイトルは、さまよりお借りしました。
ありがとうございました!



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