振り切れる糖度計算機
!)学パロ紫ネズ 本日ホワイトデー!
卒業式も終わって活気を失ったようだった校舎が、今日だけは以前の賑やかさを少し取り戻していた。 今日はバレンタインデーとは反対にごく一部の女子──彼女らは1ヶ月前の勇者ともいえる──が浮き足立つ日…ホワイトデーだった。
振り切れる糖度計算機
「しおーん!帰ろう…ぜ…」
教室の扉を開け放って言ったネズミの声は、尻すぼみに消えていった。 滅多なことでは驚かないネズミが絶句した理由は、教室の光景にあった。大勢の他のクラスの女子が教室にいた。そして、彼女たちに囲まれその中心にいたのは、紫苑だったのだ。そんな状況下で、意外にも紫苑はにこやかに笑っている。 そこで紫苑が彼女たちに手渡しているのは、小さなクッキーの袋のようだった。女の子たちは頬を染めながらそれらを受け取り、ネズミの横を通りすぎて教室を出ていく。 無言のままその一連を見物していたネズミは、ふと紫苑と視線がかち合い、あわてて踵を返した。
「あっ、ネズミ!」
焦ったような紫苑の声が追いかけてくるが、そんなものは無視し、ネズミはいっそう歩みを早める。 背後で廊下をパタパタと走る音がするが、それも黙殺する。 紫苑はちょうど階段のところでネズミに追いつくと、その肩に手をかけた。
「ネズミ?なんでぼくを置いてくんだ」
階段のステップを一段落飛ばしに降り、肩にかかった紫苑の手からさりげなく逃れる。
「あっ、ちょっと、ネズミ。ネズミ?ネズミってば!」 「うるさい。ひとの名前を連呼するな」
我慢ならずに、つい怒鳴るようにして言い返すと、そこで紫苑はふいと一瞬口をつぐんだが、すぐにまたネズミに問いかける。
「ねぇ、ネズミ、怒ってるの?なんで?あ、ぼくが女の子たちにお菓子配ってたから?あれはお返しなんだよ。もちろん、ネズミにもあるよ?」 「…は?お返し?なんの」
予想外の単語に反応し、つい後ろを振り返ってしまう。 そこには紫苑の満面の笑顔があり、ネズミは不意打ちを食らった。
「もしかしてネズミ、今日が何の日か知らないの?そういえばネズミは手ぶらだね。ぼくよりたくさんチョコ貰ってたのに」 「あ…」 「気がついた?…ほら、これは、特別にネズミだけにぼくが作ったやつ」 「えっ。じゃあ女の子たちにあげてたのは…」 「うん。あれは、母さんの作った、お店のサービス品だよ?」
安心してよ。ぼくが好きなのは、ネズミだけだから。
さらりと甘い言葉を囁く紫苑は、いつもより大人びて見えた。加えて、階段の段差のせいで紫苑の方が目線が高く、不覚にもネズミはどぎまぎした。 赤くなった顔を見られまいと俯いたネズミの頭を、紫苑は笑っていとおしげにくしゃりとかき混ぜた。
タイトルは、macleさまよりお借りしました。
← | →
←novel
←top |
|