叶えるつもりもない、


!)設定
・現代、大学生パラレル
・ネズ紫
・莉莉もイヌカシも紫苑たちと同い年


離れてみて、気付いた。自分の恋心に。
ぼく、やっぱり鈍感なんだな。
少し自嘲気味に独白してみても、現状は変わらない。

大学に上がり、紫苑を取り巻く環境は激変した。
研究科コースに進んだため、クラスメイトは皆無。自分ひとり、教授と一対一の講義。
研究科コースに進めるのは、エリート中のエリートだ。このコースに進めたのは同学年中、紫苑と沙布以外にいない。

高校で同じクラスだったネズミや莉莉は、普通科コース。通常の大学と変わらないカリキュラムだ。
イヌカシは、大学には進まず就職したらしい。一流ホテルに入っているレストランに採用されたとか。

とにかく、ネズミに会えなくなった。
高校の時は、あんなに四六時中一緒にいたのに。
同じ大学といえども、週に一回見かけることがあるかどうか。

先週は、登校したとき駐輪場で偶然会えた。
ネズミの方から気付いてくれて、声をかけてくれた。

─あ、紫苑。
─ん?ね、ネズミ!おはよう!
─あんた、この時間から登校?珍しいな。
─そう、今日は教授の都合が悪いらしくて時間割変更。
─教授って誰?
─羅史先生だけど?
─…ふうん。あいつか。

それだけで、その日一日を明るい気持ちで過ごせた。

でも、さっき。

大学の門でネズミを見かけて、声をかけようと思った。

─ネズ…

あわてて、声を引っ込めた。
ネズミに駆け寄る女子学生が見えたためだ。よく見れば、それは莉莉だった。

─ネズミくん!おはよ!

莉莉は親しげにネズミの腕を取る。それを振り払うでもなく、ネズミは莉莉に話しかける。

─おはよう。一限目、莉莉も体育だよな。
─そう!一緒に行こう!

それ以上、二人を見ていられなかった。
紫苑の足は勝手に反対方向へと走り出す。
胸がズキズキと痛んでいた。

自分の想いを、思い知らされる。
ネズミの事で、一喜一憂して。なんだか、馬鹿みたいだ。
きっと、これは恋情。

だか、叶えるつもりは、ない。
そもそも叶うはずがないし、仮に叶うとしても、この関係を進展させようとは、思わない。
そう、俗にいう、『あの葡萄は酸っぱい』だ。

時さえ経てば、このどうしようもない想いも、薄れて、いずれ消えていくだろう。

いいじゃないか。
莉莉は可愛いんだし、性格も良くて溌剌としてて純情で素直だから…ネズミはたぶらかされてるわけじゃないし、楽しそうだったし。
このまま、ぼくは何でもないよう装っていれば、きっと…時間が解決してくれる…

「紫苑くん?今日は集中できないのかな」

はっとして顔を上げる。
授業中にも関わらず、悶々と考え事をしてしまった。
すぐ目の前に、羅史の険しい顔があった。

「す、すみません!」
慌てて謝罪する。
今日の講義内容は、全く頭に入ってなかった。
はぁ、と羅史は長く溜め息を吐いた。

「もう、講義時間も終わりだ。大学には残れない」
「本当にごめんなさい。明日からは…」
「それでは、間に合わないよ。仕方がないから、少し私の家へ寄っていくかね?」

はい、と返事をしようとした時。
バタン、と派手な音をたてて部屋のドアが開いた。

「だめ」

そこにいたのは、憤怒の表情をあらわにしたネズミ。

「だめですよ、羅史先生。お持ち帰りなんか許さない。こいつは、おれのなの」

そう言いながら、ずかずかと部屋へ入ってくる。
羅史は片眉を上げ、冷たい声でネズミを咎める。

「きみ、は…普通科コースの学生だな。紫苑と君たちではカリキュラムが違う。すぐに紫苑から離れなさ──」
「ということで。失礼しました!」

羅史の言葉などには耳を貸さず、ネズミは紫苑の腕を掴む。

「は、ちょ、ネズミ?」
「黙ってついてこい」
「え…」

有無を言わさず、というようなネズミの怒気に気圧されるかたちで部屋を出る。
ネズミは、紫苑の腕を引いたままずんずんと道を進む。
怒っている。なんで?

「ネ…ネズミ?」

おずおずと問いかけてみるが、ネズミは振り返らず刺々しい声だけが返ってくる。

「なんだよ」
「え…っと、とりあえず、あの、今どこに向かって…?」
「おれの家」
「え?なんで?」

急にネズミは振り返る。紫苑は勢い余ってネズミにぶつかりそうになる。

「あんたなあ、」

両肩を、掴まれる。真っ正面からネズミと視線がかち合う。灰色の、目。

「あんたなあ、ほんっと、鈍感すぎるんだよ」

鈍感すぎる…うん、確かにぼくは鈍感だ。自分の気持ちさえ把握できなくて…

「危険察知能力も、低すぎる。あの羅史ってやつ、紫苑に気があるんだぜ?」
「は?」
「なんで、気付かないんだよ。むかつく。ほんと、むかつく」
「え、何が、はい?あの、ご、ごめ…」
「もう待たない。あんたは、おれが、いただく」
「な…」

思考が、追いつかない。
ネズミは何を言ってるんだ?

「あんたはおれのもの。拒否権なし。…紫苑」

ネズミが、耳元で囁く。

「好きだ」


叶えるつもりなんて、なかった、のに。




なんだか恥ずかしくなってきたので、ここで終了。皆さまの頭の中で補完をよろしくお願いします!
ヘタレ紫苑と男らしいネズミさんでした。嫉妬するネズミ萌え。羅史との三角関係っておいしいよね。あ、沙布も入れると四角関係だね、すごい。
ちなみに莉莉はネズミとただのお友だちです。ネガティブ紫苑さんが勘違いしただけ。
恋って、そんなもんだよね。


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