03
4時間目の終わりを告げるチャイムが鳴る。 ずっと眠っていたネズミは起き上がり、うーんと伸びをする。
「よう紫苑、給食だぜ」 「おはよう、よく寝てたね」 「おいおい、早速皮肉かよ。ああ、それでな、紫苑。おれ、給食運搬の牛乳係なんだけど」 「え?」 「あ、給食場から持ってくるのが運搬ね。運搬と配膳はクラスを半分に分けて、週代わりで交代」 「うん。で、今週は運搬の方なんだ」 「そ。物わかりがいいね。で、おれが牛乳係だから、紫苑も牛乳係ね」 「ええーっ、いやだよ。すごい貧乏くじじゃん」 「おれだっていやだ。今まで大変だったんだからな。手伝えよ」 「しょうがないな」
ネズミと二人で、牛乳瓶のたくさん入った重い容器を持ち上げ、教室まで運ぶ。 やけに長く感じる廊下を二往復して教室へ牛乳を届けると、そこでイヌカシが喚いていた。
「ちょっと床に転がっただけだ、こんくらい食える!」
手にパンを持って、食えるからおれが食う!と主張している。 それを力河が、頭をかきながらなだめる。
「転がっただけっつっても、床だからなあ」 「埃ははらった!」 「でもな、イヌカシ。考えてもみろ、おまえら上履きで廊下や便所まで歩き回ってんだぞ。てことは、ここの床は便所の床と同じだ。おまえ、便器に落としたパン食えるのか?」
ぐっ、とイヌカシが言葉に詰まる。 一部始終を見ていた紫苑とネズミは思わず笑いそうになる。紫苑はすんでのところで我慢したが、ネズミは遠慮なく吹き出す。 イヌカシがネズミに気づいて、くっと鼻に皺を寄せる。
「くくく食えるさっ、そんくらい!」 「イヌカシ、おまえなあ…意地張るな。おまえが腹壊したら担任のおれの責任問題なんだが…」
困り果てた力河に助け船を出したのは、またしても沙布だった。
「イヌカシ、そのパンはウサギ小屋に持って行きましょ。ほら、お隣のクラスからパンを譲ってもらったわ。欠席の人の分が余っていたからって」
沙布はパンをイヌカシに差し出す。 イヌカシは一瞬言葉を失った後、朝と同じように項垂れ、ごめんと謝った。
「ほんっと、たよりねぇ先生」 「あんだとイヴ、もっぺん言ってみろ」 「やーだ」
ひゅーっと口笛を吹き、ネズミは席につく。 だが感心にもネズミは、いただきます、の挨拶まで食事に手をつけるのをおとなしく待った。 やっとネズミの傍若無人ぶりに慣れてきた紫苑は、むしろ不意を突かれてネズミをまじまじと見た。
「…なに、紫苑」 「いや、意外だなと思って」 「ふふ、食事は神聖なものだ。神と、血肉を捧げてくれた動物や野菜に感謝しなくちゃ」 「驚いた。ネズミ、きみってクリスチャンだったのか」 「は?おれは無宗教だけど。あっ、でも家に仏壇があったな…神棚もあった気がするけど」 「あ…そうなんだ。うちと同じ」 「日本って、どこもそんな感じだろ」
そんな他愛もない話をしなから、優雅な手付きでさっさと食べ終えると、ネズミは紫苑の手を取った。
「紫苑、いいとこに案内してやる」 「えっ、どこ?」 「屋上。秋だから、気温もちょうどいい。…それにな、紫苑」 「うん?」 「教室でぐずぐずしてっと、長縄跳びの自主練に駆り出されちまうぞ」
ネズミはくくっと笑い、紫苑の手を引きながら非常階段を駆けのぼる。 鍵のかかったドアに突き当たると、ポケットから針金を取り出し苦もなく解錠していく。
「…ネズミ、きみすごいね」 「ふふっ。ここに案内してやるの、あんたが初めてだからな」
ドアを開ける。柔らかな陽射しが降り注いでいた。 ネズミはコンクリートの床にごろりと横になり、紫苑を手招く。 紫苑が隣に来ると、ポケットからまた何かを取り出した。
「これやるよ、紫苑。ペロペロキャンディー。おやつだ」 「えっ、いいの?」 「おれのは、持ってる。そのかわり、明日のおやつは、あんた持ち」 「なるほど、分かった」
紫苑もネズミの隣に寝転がると、空を仰いで笑った。
fin.
お待たせしました…っ!! 49000、Jさまより「12才の転校生紫苑が、在校生のネズミと出会う小学生パロのお話。紫苑寄りの視点」というキリリクでした!! 自分の小学生の頃の事を思い出すの、とても楽しかったです!! でもこれ…6年生?なんか幼くない?って感じになってしまいましたが…^^; うちの小学校、ほんとに長縄に熱かったのでエピソードとして入れたかったんですが…あれ?ってなりました、無念です(笑) いつも昼休み返上で特訓してーってやってました!でもネズミと紫苑は屋上でサボってます! これから紫苑はきっと、ネズミに連れ回されて、真面目すぎる学生から普通のお茶目な学生になっていくんだと思います^^ ネズミも、今までの不良ぶりが少しずつ更正されていくんじゃないかと…お互いに良い影響を与えあっていたらいいと思ってます! こんな駄文ですみません、返品書き直し受け付けておりますので! これからもよろしくお願いいたしますm(_ _)m
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