02


「…ネズミ君?大丈夫?入ってもいいかい?」

ネズミの返事は、ない。
おそるおそる紫苑はドアを開ける。
とたんにネズミの低い怒声が突き刺さる。

「…誰が、入っていいって言ったんだよ」
「でも…ネズミ君」
「あんたたちみんな、お節介なんだよ、ほっといてくれ」
「そういうわけにも行かないよ、ほらもう帰ろう」
「冗談じゃない!」

だんっ、と紫苑はネズミに壁に叩きつけられる。
上背のあるネズミに、ネクタイとシャツを掴まれ壁に押し付けられて、紫苑は呻く。

紫苑が苦しそうにするのを見て、はっとしたネズミは若干力を緩める。
だが、紫苑を離しはしない。
ネズミは自分より背の低い紫苑に顔を近付け、静かに凄んだ。

「なんで、あんな家に帰らなきゃならない。帰りたくない。それに、仮に帰ったとして…どうなる?向こうだって、おれが帰ってくることを望んじゃいないさ。そしておれはまた、同じことを繰り返す。いや、次はもっと上手くやるさ。ははっ、今度は事故なんて間抜けな真似はしない。完璧に蒸発してみせる」
「…ネズミ君。きみは…家に帰りたくないだけ?そうなんだよね、だって学校では友達と楽しそうに過ごしてるもんね」
「は?」
「じゃあ、ぼくの家に来ない?」
「…ばかばかしい」

ネズミは吐き捨てるように言う。
だがその心が一瞬揺れたことに気付いた紫苑は、さらに畳み掛ける。

「手続きなら、問題ないよ。きみのご両親の了承もちゃんと取ってくるし。ねぇ、ぼくと一緒に住む気はない?一人暮らし用の賃貸マンションだけど、狭すぎるってことはないと思うんだ」

にっこりと花が咲くように微笑まれ、思わず紫苑の襟首を掴んでいたネズミの手が、緩んだ。
その手を、紫苑の手がそっと包み込む。

「大丈夫、心配することなんてないよ」
「は…あんた、何を…」

何を馬鹿なことを、ふざけるなと、紫苑の手を振り払おうとした時、くらりと目眩がネズミを襲った。

「…っ」
「ネズミ!」

ぐらっと傾いだ体を、紫苑が支える。

「きみ、もう体力も限界みたいだよ。一昨日から一睡もしてないんでしょ?一緒に暮らすかどうかはゆっくり考えることにして、とりあえずぼくの家に帰ろうよ。門の外に車停めてるから、そこまで歩こう。ほら、肩貸すよ」

二日間の不眠と、磨り減らした神経。
ぷつん、と糸が切れるようにネズミの緊張は切れ、体力も尽きた。

それに伴って反抗心も薄れ、ネズミは口をつぐみ、紫苑の肩に大人しくもたれかかりながら車に乗り込む。
紫苑の運転する車の心地よい揺れに身を任せ、ネズミは都内へと帰る2時間以上の道のりを熟睡した。


ネズミ、ネズミ、起きて、着いたよ

…ん、ああ

起こしたくなかったけど…やっぱり布団でちゃんと寝ないと疲れは取れないから

…ここは?

ぼくの家。今からちょっとご両親とお話してくるね。ネズミは寝てていいよ

なっ、あんた、なに勝手に…

大丈夫、ぼくたち上手くやっていけるよ、ね?



42000hit、ネズ紫か紫ネズで学パロというキリリクでした。
ネズ紫で…学パロやってみました^^
突っぱねてる中学二年のネズミと、裏表のない善意の塊みたいな新任教師紫苑です。
多分、歳の差パロでは初めての年下攻めです…!

実はこのお話、家出のくだりだけ、実話に基づいてます。
教職概論って講義で、『実際に車を窃盗して三浦半島まで家出した中学生がいた』という体験談を先生が話していて(お迎えには先生ご自身が向かったそうで)、…中学生なのにすごいなぁ…でもネズミならやりかねないぞ…と思って書きました(笑)

えっとこれ、一応学パロ…なんですが…、「考えてたのと違う…」と思われましたら遠慮なくおっしゃってください…!m(__)m
即書き直しますので!
いつも勝手しちゃって本当に申し訳ないと思っております…orz



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