世界よ、どうかぼくを裏切り続けて


!)設定
・原作沿い2018年9月7日(Beyondはうろ覚え)
・紫苑side



ああ、まただ…
紫苑のデスクの電話が鳴る。緊急用のコール音だ。

「紫苑さん、西ブロックでデモが」

紫苑が受話器を取ると、咳き込むような声が流れてきた。緊急用のコール音を聞いた時から、すでに予測はついていた。

最近、再建委員会への反対運動が激しい。改革に伴い、狡猾な聖都市の元高官は粛清され、1人として再建委員会に参加していない。あらかた、その高官たちが西ブロックの人々を裏で扇動しているのだろう。

「…すぐ行く」

短く答え、紫苑は防弾チョッキを手に取った。





どういうルートで手に入れるのか、デモ集団は最近、武装するようになった。いや、武装した集団を、もはやデモと言えるだろうか?このまま加熱すれば、軍事制圧せざるを得ないか…。いや、それでは、NO.6と同じ穴の狢になってしまう。恐怖政治ではだめなんだ。

「皆さん、」

白髪を晒し、紫苑は群衆の前に姿を現した。紫苑と群衆の間には崩れかけた塀が依然として存在し、押し寄せたデモ集団は、それを超えられない。最前列の者達は、絶え間なく鈍器で塀を打ち、それを破壊しようとしている。

「聞いてください、」

説得しようと紫苑が口を開いた瞬間、一斉に銃口が向けられる。

紫苑さんっ!危ない!!

誰かがトリガーを引いた。だが、ボスッという鈍い音が鳴っただけだった。弾丸が不良品なのだ。火薬を湿気から守る役割を持つ薬莢が、破損している。

「お願いします、武力で主張するのではなく、」

1人目は不発だったものの、それに勢いを得て次々に発砲が始まった。やはりほとんどが不発弾であるものの、何発かは力なく飛んでくる。そして、紫苑に届くことはない。

「何か要望があったら、投書してください!再建委員は残らず読んでいます!」

怒号が飛ぶ。俺は字は書けねえ!再建委員?どこに住んでやがんだ?そこに行く時間なんかねえよ!要望?そんなの一つだけだ、この貧しい暮らしをどうにかしてくれよ!明日の飯どころじゃなく、今日の飯も食えねえよ!

「ですから、武力行使ではなく、話し合いましょう!」

不発弾に苛立った人々は、銃器を捨て、足元の石を紫苑に投げつけ始める。

紫苑さんっ!もう…危なすぎます!!

若い再建委員のメンバーの悲痛な声に頷き、やっと紫苑はメンバーの車に戻る。腕力のあるものが投げたらしい石が、車の側面にいくつか当たった。

「いつも、なんて無茶をするんですか…!」

若い再建委員は運転しながら震える声で紫苑を叱咤した。ハンドルを握る手も、恐怖で震えている。

「…ああ、大丈夫だよ。ぼくを攻撃すれば、あの集団は鬱憤が晴れて、あれ以上は被害が拡大しないんだ、」
「だからといって…自己犠牲が過ぎますよ!」
「ふふっ」

大丈夫。彼らに流れている銃弾は全て湿気ている。何故なら、そのルートは紫苑自身が確保したものだからだ。再建委員に反発を覚える集団を摘発するために。

「発砲した市民の確認は取れている?」
「あ、はい、もちろんです」
「じゃあ、彼らには刑法を適応して…」

法整備が必要だった。そして、その実行には、見せしめも。市民から武器を奪うために、まずは銃刀法違反の先例を作らねば。
そして、反体制派には、ある印象を与えねばならない……白髪の再建委員は、真摯で、話し合いを好み、非武装であるのに、銃火器で攻撃されても死ななかった…彼は不死身であると。
寄生バチにも殺されず、むろん銃火器でも殺せない、我らがリーダーであると。

「はい!すぐに適応します!」

再建委員の内部や周辺には、すでに紫苑信者が生まれつつあった。


ネズミ、きみはいま、どこを彷徨っているんだろう。
NO.6の噂は届いているかい?
まだまだ波乱は続いているよ。だから、ぼくの任務は盛りだくさんだ。
ぼくだけでは混乱を収められないかもしれないなぁ?ぼくが困っていたら、きみ、また戻ってきてくれる?





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