04


虎路が案内してくれた部屋は、とても簡素なものだった。必要なものしかない。ベッドとタンスと小さなテーブルと。四角い窓がひとつ。狭い部屋だった。

だが個室なだけでもありがたい。どうやらここはとても大きな施設のようだった。人の気配も多い。

綺羅は他人が苦手だった。人嫌いなわけではないが接し方が分からないのだ。

ベッドに腰をおろし、息を吐く。肩の力が抜けた。
一人は安心する。
虎路は、また明日の朝、と言い残して去っていった。虎路がいなくなってやっと緊張が解ける。
信用できると判断した虎路と一緒にいてさえも、緊張する。
彼のことは危険な匂いがしなかったから信じることにした。
綺羅は自分の鋭い嗅覚を信じていた。それだけが自分の道しるべだと。

それなのに、やはり安心しきることはできなくて、身構えてしまう。

やれやれ、と思った。
誰も信じられないとは、なんて疲れるんだろう。
またため息をつく。手足を投げ出し、ベッドに仰向けになった。

四角い窓に、月が映っていた。
月を見れば思い出す。母の唄。母がいつも哀しそうに歌っていた唄の数々。
綺羅はそれをそっと口ずさむ。


星の囁きが聞こえる
あの人と共に歩いた畦道
私の心に蛍のような
灯火がともった

星のざわめきが聞こえる
月があんなに高くとまっている
落ちくれた月を
庇うように暮らし始めたあの日

あぁあなたは月
いずれあなたは天に帰るだろう
その日まで
あなたの胸にいさせて

あぁあなたは月
いけない恋とは知っているけれど
その日まで
あなたの胸にいさせて



歌の意味は分からない。
けれど、母の旋律と歌詞(ことば)は耳に焼き付いて離れない。忘れられない。

「あなたは…つき」

窓に映る月を見上げる。その光が目に滲みた。



*使用させていただいた詞は、黒魔さまの「月」です。





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